相続について
遺産分割について
- ◆遺産分割の流れ
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故人の資産や負債の相続の問題
人が亡くなると故人の資産や負債の相続が問題となります。
しかし、それは単なる財産の承継ではなく、故人の人生や想いを引き継ぐことでもあります。「夫婦でいっしょうけんめい築いた資産を有効に遣って欲しい」「世話になった人に感謝の気持ちを表したい」「困難な条件を抱える子や孫の生活の足しにして欲しい」「先祖から受け継いだ財産を大切に子孫に守り伝えて欲しい」「これからも兄弟仲良くして欲しい」等々、故人の想いは様々です。
ところが、故人の想いをめぐって相続人の意見が対立すると、遺産分割の話し合いがまとまらないまま、仲の良かったご兄弟(姉妹)が反目し合うことになってしまいます。血を分けた兄弟(姉妹)であるだけに対立は感情的になり解決が難しくなることも珍しくありません。
少しの知恵が無用な争いを防ぐことになります。
このような遺産をめぐる争いを防いだり、故人の想いを伝えるために遺言書を作成しておくことは有効です。しかし、せっかく作った遺言書が不完全な場合、その遺言書の効力や文言の解釈が相続人の争いの原因となることもあります。そのようなことにならないためには是非、遺言書の内容や文言についてご相談下さい。
また、遺産の分割をめぐって相続人間に意見の対立がある場合には、それが紛争に発展しないように、できるだけ早期に、冷静かつ合理的な解決をするということが求められます。どのようにすれば合理的な解決ができるのか、相続人間の対立が深刻になる前に是非、ご相談下さい。
- ◆何から始めてよいかわからない
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Q父が亡くなりました。相続人は、母、私、弟と3人で、借金はなく、財産が相当あるようですが、遺産の分割するためにまず何から始めてよいかわかりません。
Aまず、遺言書はありますか。遺言書にだれにどの財産を相続させるか記載されている場合は、基本的にはそれに従います。
遺言書が無い場合は、相続人による話し合いもしくは裁判所での調停や審判による分割となります。
遺産の分割には、1.遺言による指定分割、2.相続人の協議による協議分割、3.家庭裁判所での調停や審判による分割があります。1. 指定分割
亡くなられた方(「被相続人」といいます)が遺言書を残していた場合、その遺言書で指定されたとおりに遺産を分割します。
遺言書の方式には、公正証書遺言・自筆証書遺言などがあります。どちらの方式でも、効力は同じですが、法律で定める形式と要件を備えていなければ無効とされてしまうので法律で定める要件を備えているかどうかは、一度専門家に相談されたほうがよいと思います。2.協議分割
遺言書が無い場合、指定分割によらない場合、遺言で指定されていない財産がある場合に相続人全員の話し合いで遺産を分割します。
遺産分割協議には、相続人全員が参加しなければいけません。音信不通の人がいる場合でも、その人を無視して決めることはできません。3. 調停分割・審判分割
指定分割が無く、また、協議分割が整わない場合、家庭裁判所による調停手続きによる分割があります。調停も成立しない場合は、審判で遺産分割が決定されれば、それに従って、遺産を分割することになります。
- ◆相続人が遺産分けに応じてくれない
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Q同居していた夫が亡くなりました。相続人は、妻である私と息子2人です。遺産分けの話について、息子のうちの二男がどうしても応じてくれません。何か希望を言ってくれれば話も出来るのですが、話合い自体に応じてくれない状況です。せめて私が住んでいる家だけは私名義にしたいのですが、二男が協力してくれないので、それも出来ていません。このような場合でも、遺産分割は出来るのでしょうか。
A遺産分割をする場合、一般的には、まず、遺産分割協議をし、これが成立しなければ、遺産分割調停を申立てることになります。この手続の中で、双方が言い分を話合い、最終的に決着がつかなければ、審判手続に移行します(「遺産相続の流れ」参照)。
ところが、話し合い自体を拒む方がおられます。住所が分かっているのに話合いに応じてくれない場合は、例えば、親類の方などを通じて、話し合いに参加するように促してもらうということも一案でしょう。弁護士に依頼し、代理人弁護士から、遺産分割の協議に応じるように書面で通知等をすると、相手も弁護士に相談する等して、話し合いが始まるということも考えられます。
しかし、それでも、話し合いに応じてくれない場合は、調停を申立てることが考えられます。調停になれば相手も出席してくることがあります。相手が調停手続にも参加してくれない場合は、審判手続になり、最終的には裁判所が、審判によって判断します。
お尋ねのように、ある不動産を相続人お一人の名義にしたい場合は、その分の代償金を相手に支払うという解決法が考えられます。例えば、今回なら、家について、二男さんの相続分である4分の1をあなたが二男さんに支払うという方法です。審判でも、裁判所はこのような判断をしてくれる場合があります。
- ◆遺産分割協議のあとで財産がみつかりました
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Qずいぶん調査して遺産分割協議をしたつもりなのですが、協議が成立した後に、新たに遺産があることが判明しました。せっかくやった遺産分割協議は無効になってしまうのでしょうか。また、相続人の一部が参加していない遺産分割協議の効力は、どうなるでしょうか。
A遺産分割協議が成立した後に、新たに遺産があることが判明した場合、通常は、先にした遺産分割協議は、有効と考えられています。新たに判明した遺産については、さらに遺産分割協議をおこなうことになります。
また、もともとの遺産分割協議書に、新たに遺産が判明した場合の定めをしておけば、そのとおりになります。例えば「本協議書に記載無い遺産が判明した場合、その全てを○×が取得する」などと定めておけば、新たに遺産分割協議を経なくても、○×さんが取得することになります。
他方、相続人の一部が参加していない遺産分割協議は、無効となります。参加した相続人の間でも、無効です。
- ◆相続財産を勝手に使われてしまいました
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Q相続財産を管理している相続人の1人が、被相続人の預貯金(合計3000万円)のうち、500万円を勝手に使って、今は2500万円しか残っていません。遺言はありません。今、遺産分割調停をしているのですが、調停の中で預貯金を使い込んだかどうか判断してもらうことはできるのですか。
また、調停の手続の中で使い込んだかどうかを判断できない場合、使い込まれた500万円を返してもらうには、どのような手段をとればよいのですか。A預貯金については、金融機関に対する預貯金債権として、相続と同時に、法律上当然に法定相続分に従って各共同相続人が取得するものとされています。そのため調停を進める際に.当事者間で預貯金についても遺産分割協議の対象にするという合意ができない場合には、預貯金は遺産分割の対象とならずに各共同相続人がそれぞれ自分の権利として金融機関に対して自分の相続分の払い戻しを請求することになります。
本問では被相続人が亡くなったことを知らない間に相続人の1人が、被相続人名義の預貯金(合計3000万円)のうち、500万円を勝手に下ろしたということを前提に検討を進めます。
(1)相続人の1人が500万円をお通夜・告別式・初盆の諸費用や香典返しに使ったということならば、領収書等を提出しもらって確認をすることになります。
このような費用は、原則的には喪主が負担する(その反面、香典は喪主が取得する)のですが、相続人の合意があれば遺産から支払っても差し支えありません。たとえば、お通夜・告別式と告別式の日に初七日までした場合には、そこまでの費用から「香典収入」を差し引いた分を、遺産から捻出するという合意をすることが考えられます。なお、その後の法事や香典返しの費用は喪主や祭祀承継者が負担するというのが一般的です。
また、被相続人の医療費や生前の光熱水道料金など未払いの債務はいずれ相続人が支払わなければならないので、その支払いに充てたということであれば他の相続人の同意が得られることが多いです。
(2)次に、勝手に使い込んだ場合や、(1)の残金がある場合について考えましょう。 この場合は使い込んだ500万円ない(1)の残金を返してもらって、その現金と2500万円の預貯金を遺産として分割協議をすることができます。ただし、預貯金を遺産分割協議の対象とするためには、相続人間の合意が必要であることは前記のとおりです。
たとえば、被相続人名義の預金が甲銀行に2000万円、乙銀行に1000万円あって、相続人はa、b、c、d、eの5人で各5分の1ずつの法定相続分を有するとした場合、各人が甲銀行に対しては400万円、乙銀行に対しては200万円の預金債権を有することになります。もし、aが乙銀行の預金の内、500万円を無断で引き出して自分のために費消してしまった場合は、それにより乙銀行に対して各人が有するはずの預金債権が200万円から100万円に減ってしまったことになるので、b、c、dはそれぞれaに対して100万円の返還を請求できることになります。この手続は家庭裁判所ではなく簡易裁判所又は地方裁判所で行うことになります。
ただし、これには例外があります。平成22年の最高裁判決(最判平成22年10月8日民集64巻7号1719頁)によって、郵政民営化前の平成19年10月1日より前に預け入れた定額郵便貯金については、他の預貯金のように相続と同時に法律上当然に法定相続分に従って各共同相続人に帰属するのではなく、遺産分割協議が必要であるとされています。
なお、預貯金について相続と同時に法律上当然に法定相続分に従って各共同相続人に帰属し、相続人間の合意がない限り遺産分割の対象とはならないという取扱については実務の実情に即さないものとして将来判例が変更される可能性があります。
遺言について
- ◆遺言書を作る必要について
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Qどういう場合に遺言書を作る必要がありますか。
A相続を巡ってトラブルが発生する可能性が高いケース、すなわち、相続人間で遺産の話し合いがうまくいかないことが多いケースがあります。以下のようなケースは、遺言を利用して事前にトラブルを回避するほうがよいです。
1.まず、配偶者がいて子どもがいない場合は、相続権は、配偶者と、故人の親、親が既に亡くなっている場合は、故人の兄弟に生じます。
この場合、不動産の登記変更や定期預金の解約等に故人の親もしくは兄弟にお願いしなくてはならず、疎遠になっている場合には、相続手続きで苦労する可能性はあります。
2.推定相続人の中に行方不明者がいるときには、失踪宣告もしくは不在者財産管理人を選任するなどの方法をとらなければならず、また、認知症の者がいる場合には、その者に成年後見人を選任する等の方法をとらなければ、有効な遺産分割協議ができず、相続手続きに困難が予想されます。
3.内縁の妻がいる場合、内縁の妻には相続権はありませんので、遺言がなければ、何の財産も内縁の妻はもらえないことになります。
4.相続人がいない場合
天涯孤独の身で相続人となられる者がいない方が亡くなった場合、相続財産を受け取る者がいないので、特別縁故者等の請求がなければ、国庫に帰属してしまいます。
生前親しくした者に財産を分けたい場合は、遺言がないとその方に財産を分けることができなくなるかもしれません。
5.事業をしている場合
何も残さなければ、相続は、法定相続分に従って平等に分配されます。そのために事業の継続が困難となる場合があります。また事業の継続自体はできても、事業の後継者が会社の株式を取得できない結果、事業承継が円滑にできないこともあります。
- ◆遺言書の作り方について
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Q私の死後に子どもたちが遺産分割をめぐって争うことのないように,今のうちに遺言書を書いておこうと思っています。法律の専門家に書いてもらう必要があるのでしょうか?
A必ずしも法律の専門家に書いてもらう必要はありません。
基本的に、遺言書は、遺言者本人が立会人や証人なしにいつでも自由に作成することができます(自筆証書遺言)。
ただし、一定の方式を守らなければなりません。
具体的には、
1.全文を自筆で書くこと(代筆やパソコンは不可)、2.日付を自筆で書くこと、3.遺言者の名前を自筆で書くこと、4.押印すること(認め印でも可)等が求められます。
これらの方式が守られていない遺言書は無効となりますのでご注意ください。
なお、ご自身で遺言書を作成された場合、上記の方式を誤って無効となったり、遺言書を紛失したり、隠されたりするリスクが否定できません。それが不安であれば公正証書遺言をおすすめします。
公正証書遺言とは、遺言者が遺言内容を公証人に口で伝え、公証人がこれを筆記して遺言者に読み聞かせ、筆記内容が正しいことを確認したうえで作成される遺言です。公証人が作成する遺言ですから、方式不備のため無効になる心配はありませんし、公証役場が遺言書の原本を保管してくれますから、紛失や隠匿の心配もありません。多少の時間と費用がかかりますが、最も安全な遺言と言えるでしょう。
ただし、公正証書遺言を作成した場合でも。遺言者に遺言能力があったかまでは公正証書では確定できませんので、この点が争われることはあり得ます。
- ◆遺言書があるかを知りたい
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Q母が亡くなりました。父は既に亡くなっており、法定相続人は、私と、私の弟の2名です。母のことは、私が何かと面倒をみていました。母からは、だいぶ前に遺言書を作成したというようなことを聞いています。ただ、自宅からは、遺言書らしきものは見つかりません。あきらめるしかありませんか。
Aお母様が自筆証書遺言を作成し、これが見つからないという場合には、これ以上どうしようもないということになります。
ただし、お母様が公正証書遺言を作成した場合は、自宅から見つからなくとも、公証役場に原本が保管されています。お母様が利用しそうな公証役場に照会が可能です。また、平成元年以降(東京や大阪ではこれより前から)に作成された公正証書については検索システムで検索が可能です。検索システムでは、全国のどの公証役場で作成された公正証書遺言も検索、照会が可能です。一度最寄りの公証役場に相談されるとよいでしょう。
- ◆特定の相続人にだけ相続させたい
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Q1.私は、遺言書を作成して長男に自宅を相続させたいと思います。
2.その代わりに、長男に自宅の住宅ローンの債務を引き受けさせることは可能ですか。A1. 「長男に自宅(特定は必要)を相続させる」旨の遺言を作って相続させることは可能です。
遺言には、自筆証書遺言と公正証書遺言があります。
2.長男に「だけ」債務を相続させ、他の子らには、債務を相続させない相続はできません。
住宅ローン等の金銭債務は、法律上当然に分割されて各相続人は、法定相続分に応じて責任を負うものとされています。
プラスの財産については、遺言で相続させる者を決めることはできますが、マイナスの財産(借金)については、債権者の利益等が考慮されるため、遺言によって一部の相続人の債務を免除することはできません。
ただ、自宅だけが唯一の相続財産の場合は、長男以外の相続人は相続放棄手続きをすることによって相続人から外れ、住宅ローン等の債務を相続しなくてもよくなります。これにより、遺言を作成しなくても、長男が自宅と住宅ローンの債務を引き受けることになります。◆もう一歩踏み込んだ解決の仕方
自宅だけが唯一の相続財産の場合、遺言で長男に自宅が相続されると、他の相続人は、自宅をもらえず、債務だけが相続される結果となります。
この場合、債務の負担が重いというのであれば、相続放棄手続きをすることによって、相続人から外れ、住宅ローン等の債務を相続しなくてもよくなります。
祭祀について
- ◆葬儀費用について
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Q両親が亡くなりました。相続人は長男の私と次男、長女の3人です。法定相続分は3分の1ずつということは知ってはいますが、私が葬儀で喪主を務め、今後はご先祖様から承継した墓を守って、両親の法事も主宰しなければならず、弟や妹と比べて出費がかさみます。3分の1ずつというのは不公平のように思います。何とかなりませんか。
A第二次大戦での敗戦までは家制度のよる戸主相続制があり、基本的には「家を継ぐ」長男が親の遺産を相続すると共に祭祀も執り行うことになっていました。しかし、その結果が、長男以外は家を出なければならず、分家や嫁入りができるのはいいほうで、丁稚奉公に出されたり、女郎屋に売られたり、「ちゃんとご飯が食べられる兵隊さんになろう」と言った具合に、軍国主義の基礎となっていました。
そこで、日本国憲法とその下の法律では、家制度をなくし個人の尊厳を第一にし、相続と祭祀とを峻別し、相続では兄弟姉妹の平等分割といったシステムに変えたのです。しかし、現実には、「○○家と△△家との結婚式」とか「○○家の葬儀」というふうに家制度の残滓があり、特に農家では農地を分割したのでは共倒れになる危険があり、ご質問のようにむしろ跡継ぎと言われる長男の方が損をしているというのが実感かもしれません。
しかし、どのような(贅沢なあるいは質素な)葬儀にするかは喪主である貴方が決めることですし、法事も必ず主宰しなければならないというものでもありません。その原則から考えれば、勝手に長男が決めたことの負担を兄弟姉妹に求められるのも兄弟姉妹にとって心外だとも言えます。
やはり、現実の中でどう公正な解決を図れるかが問われていると思います。念のためにいっておきますと、法定相続分(この場合は3分の1ずつ)というのは必ず守らなければならないルールではありません。
現在では、通夜、葬儀(告別式)、「焼き場」、初七日を一連の行為としている場合が多いようです。また、葬儀費用は遺産から支弁して好いとの最高裁判例もあります。そこで、神戸家裁の遺産分割の調停では、対立のある場合には、(通夜と葬儀(告別式)と連続した初七日の費用-香典)を遺産から支弁する、逆に言えば、香典返しの費用や初七日より後の四十九日・初盆・一周忌等々の費用は祭祀承継者の負担(参加者がお供えをされるのを不要というものではありません)とすることで調整を図っています(強制ではありません)。
- ◆お墓や仏壇についてトラブルになりそうです
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Q私は、次男です。父は数年前に亡くなり、墓も仏壇も母が管理しています。父母とは離れて暮らしてきた長男が、母の死後、父母の墓や仏壇を引き継ぎたいと言っています。長男と母は仲が悪いわけではりませんが、母は、長年近くに暮らし父母の面倒をみてきた私に引き継ぎたいようです。私は母の意向に沿うようにしたいと思っております。これには妹も賛成してくれています。どのようにしたらよいでしょうか。
A亡くなった方の財産と債務は相続人が相続することになります(民法896条)。ただし、お墓や仏壇などは複数で分割すると不都合ですので、この相続とは別に、「祖先の祭祀を主宰すべき者」が承継することになります(民法897条)。
「祖先の祭祀を主宰すべき者」は、1.被相続人の指定、1.がなければ2.慣習、1.2.ともなければ3.家庭裁判所が定める者となります。もちろん、相続人間の話し合いで決定していただくことは構いません。
ご相談の事案では、お母さんがあなたにお願いしれたい気持ちをお持ちなのですから、母にあなたを「祖先の祭祀を主宰すべき者」に指定してもらえればよいことになります。指定は、遺言でなくともよいのですが、あとでトラブルを防ぐためには遺言書に記載してもらうのが望ましいといえます。
お母様が亡くなられた後、もし遺言書などが存在せず1.被相続人の指定の有無について争いがあり、また2.慣習の内容についても争いがあり、あなたと長男との間で話し合いがつかないような場合は、家庭裁判所において判断してもうことになります。
家庭裁判所は、1.被相続人による指定があったか、2.慣習があったかを検討し、いずれもない場合は、3.家庭裁判所自身が「祖先の祭祀を主宰すべき者」を定めることになります。その際には、一般に、被相続人との身分関係、生活関係の親疎の間柄、候補者の意思及び能力、候補者と祭具等との場所的関係、関係者の意向などを考慮されます。
1.被相続人による指定については日記、手紙や、親族が集まった会合における発言などがあれば有力な事情となります。指定は黙示の指定でも構わないのですが、あなたが近くに住んでおりご両親の面倒をみてきたとか、ご両親があなたをもっとも頼りにしていたという事情だけからは(黙示の)指定があったという認定まではなされないのが通常です。
3.については、あなたがお墓の近くに住み、これまでご両親の面倒をみてきており今後も祭祀を主宰する意欲があり、妹が賛成してくれているといった事情は有利に働くものと思われ、その他の事情にもよりますが、あなたが「祖先の祭祀を主宰すべき者」とされる可能性が高いといえます。
その他について
- ◆後見制度の利用について
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Q先に父が既に亡くなっており長男である私(というより私の妻)が同居して母の世話をし、母の指示に従って預金からの出金もしております。 しかし、私には、他の兄弟姉妹がおり、仲はあまり良くありません。母が亡くなったときに、母の財産を私たち夫婦が使い込んでいると非難し始めないか今から心配です。どうしたらよいでしょうか。
Aお母さんの判断能力がはっきりしていればきちんと財産管理していることを確認してもらい(文書がいいが無理なら録音)、お母さんの判断能力がはっきりしなくなるおそれがあれば任意後見制度、お母さんの判断能力が十分でなければ法定後見制度を利用してもらう(そのときは帳面をつけるのは当然です)のが一番適切です。
- ◆相続人が一人行方不明です
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Q相続人が一人行方不明です。遺産分割手続を進めたいのですがどうすればよいでしょうか。
A遺産分割の協議は相続人全員で行う必要があります。行方不明であるからといって協議から除外することはできません。そこで、まず行方不明の相続人の生死が問題になります。民法30条第1項で「不在者の生死が7年間明らかでないときは、家庭裁判所は、利害関係人の請求により、失踪の宣告をすることができる。」、第2項で「戦地に臨んだ者、沈没する船舶の中の在った者その他死亡の原因となるべき危難に遭遇した者の生死が、それぞれ戦争が止んだ後、船舶が沈没した後又はその他の危難が去った後1年間明らかでないときも・・・同様とする。」としています。行方不明の相続人の方がこれに当てはまっているときは、共同相続人として利害関係人に当たるあなたから、家庭裁判所に失踪宣告の申立をしましょう。失踪宣告がされると、民法30条第1項に当たる人は生死不明になってから7年後に死亡したとみなされ、民法30条第2項に当たる人は危難が去ったときに死亡したものとみなされます。
被相続人が死亡したものとみなされた人より前になくなった場合は、死亡したものとみなされた人の相続人があなた共に相続人になりますから、遺産分割の協議や調停をすればいいのです。被相続人が死亡したものとみなされた人より後になくなった場合は、被相続人が貴方や行方不明の方の親である場合は、死亡したものとみなされた方に子がいれば、その人(あるいは人たち)が代襲相続人(民法887条)になりますので、その人(あるいは人たち)と遺産分割の協議や調停をすればいいのですが、被相続人が貴方や行方不明の方の兄弟姉妹である場合は、代襲相続の規定は適用ありませんので、行方不明の方の遺族は問題の遺産分割とは無関係になります。
次に、行方不明ではあるが、上記のように死亡とは見なされない場合は、行方不明の方はどこかで生きておられることになりますから、その方について家庭裁判所に不在者の財産管理人選任の請求をし(民法25条)、選任された方と遺産分割の協議や調停をすることになります。この場合、遺産分割の協議や調停をまとめることは、不在者の財産管理を本来とする財産管理人の権限を越える行為をすることになるので、財産管理人から家庭裁判所の許可をえてもらうことが必要(民法28条)です。
- ◆認知されていない子供の相続
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Q父が亡くなりました。私の父と母は入籍しておらず、父は私を認知しないまま亡くなったのです。父の、遺言はありません。父には、亡くなった奥さんとの間に、長男と長女がいます。本来なら私も相続人で遺産分割協議に加われるはずなのに、私が認知されていないので、私の兄・姉にあたる長男と長女だけで父の遺産である不動産を売却して、売却代金を折半してしまいました。私が、相続権を主張するにはどうすればいいですか。
Aまず、お父さんが貴方を認知しないままで亡くなっているので、その亡くなった日から3年以内に検察官を被告として認知の訴えを起こさなければなりません(民法787条、人事訴訟法12条3項)。この裁判では、検察官には事情が分かりませんから、被告である検察官は、長男と長女に連絡を取って、この裁判への補助参加(民事訴訟法42条以下。いわば被告の応援団として裁判に参加すること)を打診するのが普通です。
この死後認知の裁判での勝訴が確定して初めて、貴方がお父さんの相続人であることが公的に認められることになります。その場合、貴方の相続分は、長男と長女が嫡出子なのに貴方が非嫡出子なので長男や長女の相続分の半分ということになりますから、5分の1になります(民法900条4号)。この非嫡出子の相続分が嫡出子の半分という規定については、法の下の平等を定めた憲法14条に違反して無効だとの意見があります。しかし、最高裁判所は平成7年に違憲とはいえない旨の決定を出しています(ただし、現在最高裁判所に係属中の訴訟で見直される可能性が出てきています)。
次に、遺産分割協議を長男及び長女としようと思っても、もう遺産である不動産は売却・代金折半されてしまっていますので、5分の1にあたるその価額の支払を貴方の兄さん・姉さんに請求することになります(民法910条)。その場合、不動産の評価額はどうなるかというと、一般に不動産等の物の評価額は分割時を基準にするのが判例ですから、たとえ第三者に売却されていても現在の価格を基準にすることになると思われます。
相続放棄をめぐって
- ◆相続放棄の手続き
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Q相続放棄の手続はどのようにすればよいのですか。
Aお父さん(「被相続人」といいます)が亡くなられたことを知ったときから3ヶ月以内(「熟慮期間」)に,「相続放棄の申述書」を作成し,被相続人の住民票除票やあなたの戸籍謄本などを添えて,所定の収入印紙や郵便切手とともに家庭裁判所に提出します。
家庭裁判所はあなたの相続放棄の意思を確認した上で「相続放棄申述受理証明書」を交付してくれます(これが相続放棄をしたことの証明になります)。
- ◆住んでいる家族にだけ家を相続させたい
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Q私の父が亡くなりました。私には兄が1人いて、母と兄と私の3人が法律上の相続人(法定相続人)だと聞きました。
父と母はいずれも無職で年金生活をしていました。それゆえ、父の遺産といっても父が母及び兄の家族と住んでいた父名義の家(土地建物)があるだけです。預金がわずかにありましたが、葬儀費用に遣ってしまいました。
これからもこの家には母と兄の家族が住み続ける予定なので、母はこの際、家を兄名義にしたらよいと考えているようです。
また、私は、結婚して遠方に住んでいますので、父の遺産をもらうつもりはありません。ただ、父がこの家を改築するときに銀行から借り入れをしており、その負債が400万円ほど残っています。
そこで、家の名義を父から兄一人の名義にするにはどのようにすればよいでしょうか。
また、父名義の負債はどのように処理したらよいでしょうか。A家の名義をお父さんからお兄さんに変える方法としては、第1に、お母さん、お兄さん、あなたの3人が遺産分割協議をして、お兄さん一人が家を単独で相続するという合意をするという方法が考えられます。家をお兄さん一人に相続させるという遺産分割協議書を作成すれば、家の登記をお兄さん名義にすることができます。しかし、この場合お父さん名義の400万円の負債は法律上は法律で定める相続分(法定相続分)にしたがって、お母さんが2分の1の200万円、お兄さんとあなたが4分の1の100万円ずつ相続することになり、あなたは遺産を一切承継しなくとも銀行に対して100万円の債務だけを負うことになります。
実際には、遺産分割協議の際に家を単独で相続するお兄さんが自分が責任をもって負債を支払うという約束をすることが多いでしょうから、そのような約束をしておけば、あなたが住宅ローンを支払うという心配はしないでよいでしょうが、万一、お兄さんが支払を怠ったり、支払ができない事情が生じた場合には銀行は100万円を上限としてあなたに請求できることになります。
あなたとすれば遺産をもらわない以上、お父さんの負債からも解放されたいと思いのが当然だと思います。
そこで、第2に考えられる方法が「相続放棄」です。相続放棄の手続をすれば、相続人ではなかったことになり、資産を相続することもない代わりに負債も一切承継しないで済みます。相続放棄の手続はお父さんの最後の住所地を管轄する家庭裁判所で行うことができます。
- ◆家族と関わりたくないので相続放棄をしたい
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Q私は両親や兄とは不仲で、この十数年間、全く連絡を取り合っていませんでした。父が亡くなったことも知らされていなかったために、父が死亡して半年ほど経ってから、親戚を通じて父の死亡を知りました。
長年音信不通でしたから父に遺産があるのかどうかもわかりませんが、私は何も要りませんし、相続のことで母や兄と関わり合いになりたくはありません。そこで相続放棄をしようと思うのですが、友人から相続放棄は3ヶ月以内にしないといけないと聞きました。私はもう相続放棄の手続をすることはできないのでしょうか。A法律では相続放棄の熟慮期間(相続放棄ができる期間)は3ヶ月と定められていますが、3ヶ月の始期は相続放棄をしようとする人が「自己のために相続の開始があったことを知ったときから」とされているので、お父さんが亡くなったことを知ったときから3ヶ月以内であれば相続放棄をすることが可能です。
- ◆相続放棄と死亡保険金
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Q私と母は相続放棄をし、兄が父の遺産を相続しましたが、相続放棄の手続の後に母が父の遺品の中から、父が契約者とする生命保険証書を見つけました。それによると、被保険者も父となっており、父が死亡した場合には死亡保険金として400万円が支払われることになっています。相続放棄をした母はもう死亡保険金を受け取れないのでしょうか。
A保険金は、受取人固有の財産となり、相続財産とはならず、相続放棄する財産の対象とならないので、相談者が相続放棄しても保険金を受け取ることはできます。たとえば、お父様が生前、生命保険金の受取人欄にお母様の氏名を記載している場合には、生命保険金は遺産には含まれないことになり、(相続放棄をした後も)お母様は保険契約にもとづいて生命保険金を受け取ることができます。
ただし、契約者であるお父様が自らを保険金の受取人に指定していた場合は、保険金お父様自身の財産つまり父の遺産となり、この場合は、相続放棄すると保険金を受け取ることはできません。
- ◆相続放棄と遺族年金
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Q亡くなった夫の借金が多額であり、子らとも相談した結果、相続人全てで相続放棄することになりました。
相続放棄した場合でも、私は、夫の遺族年金をもらうことができますか。A遺族年金は、相続とは関係なく、法律の規定に基づいて生計を同一としていた者に支給されるものですので、相続の対象とはなりません。したがって、相談者が相続放棄しても遺族年金を受け取ることはできますし、遺族年金を受け取っても、相続放棄できます。
- ◆遺産をつかったあとで相続放棄をすることができるか
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Q父の預金はわずかしかありませんでしたが、母は父死亡の直後に預金をおろして、入院費用や葬儀費用に遣いました。少しでも遺産を遣った後は相続放棄ができなくなるということを聞いたことがあるのですが、母は相続放棄の手続ができますか。
A民法921条は、1.相続人が相続財産の一部でも処分した場合、2.3ヶ月の熟慮期間が過ぎてしまった場合、3.遺産を隠すなど背信行為をした場合、などには単純承認した(被相続人の資産及び負債の相続を認めること)ものとみなして、相続放棄ができなくなると定めています。民法は遺産の一部をすでに遣っておきながら、後に相続放棄によって負債を免れるというような身勝手は許さないという趣旨です。
遺産である被相続人名義の預金を遣ってしまうことは、相続財産の処分に該当するとされるおそれがあるので注意を要します。ただし、被相続人が保管していた現金などを被相続人の火葬費用や未払治療費の支払の一部に充てた場合などに例外的に単純承認とはみなされないケースもありますので、そのような場合は弁護士に相談されることをお勧めします。
- ◆遺産も負債もないはずなのに死後3ヶ月を過ぎた後に負債の請求がありました
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Q私は長期間父と離れて暮らしていましたので亡くなった父の財産については何も知りませんでした。両親はもっぱら年金だけで借家で質素な暮らしをしており、母からは預金もほとんどなく、分ける遺産はないかわりに負債もないと聞いたので何もしないでおりました。
ところが、父の死後、10ヶ月ほどして金融機関から300万円の支払を求める手紙がきました。生前、父が友人の連帯保証人になっていたらしく、母も知らなかったということです。このような場合、私と母は父の負債を支払わなければならないのでしょうか。A他の項目(家族と関わり合いたくないので相続放棄をしたい 遺産をつかったあとで相続放棄をすることができるか)でもお答えしたとおり、お父さんが亡くなったことを知ったときから3ヶ月間を経過すると、もはや相続放棄の手続はとれなくなるのが原則です。
しかし、負債がないと信じたとしてもしかたがないといえるような事情がある場合には、裁判例は3ヶ月の熟慮期間は相続人が負債の存在を知り、または通常なら知ったであろう時期から起算するとしていますので、あなたの場合は負債の存在を知ったときから3ヶ月以内であることを裁判所に上記の事情を説明して相続放棄の手続を進めることになります。
- ◆負債を完済したいのですが負債が資産を上回る可能性があります
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Q父は不動産と預貯金を残して亡くなりましたが、1500万円ほどの負債も残しました。父の資産が総額どれくらいになるのか正確にはわかりませんが1000万円から2000万円の間だと思います。
母はこの機会に父の残した負債を完済して債権者にご迷惑をおかけしたくないという気持ちが強いようです。しかし、負債より資産の方が多ければよいのですが、負債が資産を上回った場合に私にも母にも不足分を弁済する力はありません。このような場合はどのようにしたらよいでしょうか。A資産と負債の額が正確にわからないと方針を決めることができません。このような場合には「限定承認」という方法があります。これはお父さんから相続した資産でお父さんの負債を弁済し、かりに不足が出ても相続人の個人の財産で弁済する責任を負わないし、かりに、遺産でお父さんの負債を全部弁済して余剰がでればそれは相続人が取得するという制度です。「限定承認」の手続も相続放棄と同様にお父さんの死亡を知ってから3ヶ月以内(熟慮期間)に家庭裁判所に対して行う必要があります。ただ、限定承認は相続放棄とは違って、相続人が複数いる場合には全員が共同で限定承認の申述をしなければなりません(相続人の1人が反対すればできません)。なお、相続放棄をした方は初めから相続人でなかったことになりますので、残りの相続人で限定承認をすることはできます。
また、相続放棄の熟慮期間とされている3ヶ月では足りないが、もう少し時間をかけて調べれば資産と負債の正確な額が判明して相続放棄をすべきかどうかの方針を決められるという場合には、3ヶ月の熟慮期間が終わるまでに家庭裁判所に「熟慮期間の伸長」を申し立てると熟慮期間を伸ばしてくれます。