活動報告
2022.08.04
このままでいいのか日本
少し前のニュースになりますが、神戸製鋼所が灘区に新設している巨大石炭火力発電所の設置に係る訴訟について私も関わっているので報告します。
CO2を大量排出する石炭火力発所について、国が神戸製鋼所の環境アセスメントを通過させたのは違法だとする周辺住民らの請求が、大阪地裁に引き続き大阪高裁でも、原告らには原告適格がないという形で否定されました。簡単に結論を述べるならば「誰も争えない」ということです。
この訴訟は法的に最先端の議論が多く、それは既に多く論考が出ていますのでそれに譲るとして、ここで私がコメントしておきたいのは「このままでいいのか日本」ということです。
日本では、石炭火力発電所の新設は神戸だけでなく、全国でいくつも進んでいます。
電力の安定供給が生活や産業に極めて重要だということは当然ですし、メガソーラー、洋上風力など、欧州等が取組んでいる再エネ発電が地理的環境的に難しいという問題も確かにあります。しかし、「このままでいいのか日本」なのです。
近年の夏場の猛暑はもはや誰もが疑わない事実です。少し前、豊岡って夏になると毎年ニュースになるよねって言われていましたが、今はどうでしょうか。昨日のニュースによれば、栃木埼玉で39℃、都心は35℃です。
集中豪雨による土砂災害、浸水被害は、毎年何十何百と個人の人生の基盤である家や、多くの人命を飲み込んでいます。豪雨は九州の被害のニュースが多かったですが、昨日今日は北陸、新潟と北に上がっています。
原告団は、裁判で、既に人権侵害となっていると主張してきました。神戸の石炭火力発電で出されるCO2が、どこで誰に被害が生じるかはわかりません。それだけで被害が生じるのでもありません。しかし、世界の誰かの命や家を奪う要因になっています。これは現代の公害というべきです。
大阪高裁の判決に対しては、原告団は最高裁へ上告しました。今後、日本初の環境アセスの原告適格について判断がされます。
また、原告団は、神戸製鋼所に対しても直接、発電所の稼働を止めよとの訴訟を提起しています。
この訴訟は現在神戸地裁で審理されており、先日、専門家証人として、この分野の第一人者である江守正多氏が証言に立たれました(なお、同氏の気候変動に関する解説は、ネットを含む各種メディアでご自身が極めて簡潔に解説されておられるので、それを参照して下さい)。
司法は既に起きている人権侵害から逃げてはいけないですが、本来は国がこれまでの政策を変更する決断しなければなりません。我々が、このような災害を前にして、政策転換を求める声をあげなければなりません。
個人では、電気を選び自分で備えることもかなりできるようになっています。これはまた別稿しますが、エネルギー安全保障の問題として、有事に備えるという意味では、いつまでも外国が石炭や石油を日本に売ってくれると思うべきではないです。これも「このままでいいのか日本」です。
今後、環境アセスについては最高裁判決、稼働差止については神戸地裁判決の予定です。「このままでいいのか日本」の、司法の結論が待たれます。
弁護士 與語信也