コラム
2019.07.05
法定利率引き下げによる,交通事故等の逸失利益の増加
昨年,民法の大きな改正があり,2020年4月から施行される予定となっています。これまでの民法から大きく変わるところがたくさんありますが,そのうちの一つが法定利率の引き下げです。
これまで民法では法定利率が5%でしたが,低金利が長期化している実情にはそぐわないことから,法定利率が3%に改正され,3年毎の見直しを行うこととされました。
利率が低くなるため,一般的には,請求する側にとって不利益となる改正ですが,一方で,この改正によって,請求額が増額する場合があります。
それは,交通事故などを原因とする後遺障害,死亡による逸失利益です。
逸失利益とは,本来得られていたのに,後遺障害や亡くなられたことによって得られなくなった利益であり,典型的には働いて得る収入です。
逸失利益の計算方法は,基礎収入✕労働能力喪失率✕労働能力喪失期間によって計算されます。
逸失利益は将来得られるはずの利益なので,本来,正確な額がわからないものですが,実務では,中間利息控除という考え方をして,将来得られるはずだった収入を現時点に換算するという手法を用います。
イメージとしては,将来得られるはずだった収入(逸失利益),例えば400万円を,そのまま今受け取ると,将来の400万円と現在の400万円では現在の500万円の価値の方が高いので,将来の400万円を現時点の価値に換算するため,中間利息分を控除するということです。
その中間利息は,今まで5%だったのですが,今回の改正で3%となり,控除される中間利息が減るため,逸失利益が増大することになります
例えば,年収400万円の人が,後40年働ける時点で交通事故によって亡くなった場合,
基礎収入400万円✕労働能力喪失率100%✕労働能力喪失期間40年ですが,法定利率が5%であれば,この労働能力喪失期間は17.16という数字になります。一方で,法定利率が3%であれば,23.11という数字になります(この換算した後の係数をライプニッツ係数といいます)。
したがって,法定利率5%であれば
400万円✕1.00✕17.16=6864万円
改正後の法定利率3%であれば
400万円✕1.00✕23.11=9244万円
となります(これはあくまで一例であり,単純化した計算です)
交通事故に遭われても,後遺障害なんて残らないほうがいいし,ましてや亡くなられるということは本当に痛ましい出来事です。
ただ,不幸にも後遺障害が残ったり,亡くなられた場合に,適切な賠償がなされなければいけません。
(弁護士 田崎俊彦)