裁判例紹介

Q & A〜ボーナス・賞与(一時金)が支払われなかったり、減額された場合

masuda弁護士 増田正幸

Q  ボーナス・賞与(一時金)が支払われなかったり、減額された場合はどうなるのでしょうか。

 

A    賃金・労働時間などの労働条件は、個々の労働者と会社との間の労働契約で定められるべき事項ですが、わが国では労働契約で労働条件の詳細を定めることはなく、契約書を作成しないことも珍しくありません。

  実際上、労働条件は使用者が作成する就業規則において統一的に定められています。

  また、労働組合(以下「組合」といいます。)のある企業では、労働条件は組合との交渉を経て労働協約で定められることもあります。

  労働基準法や労働組合法は、個々の労働者と会社との間で就業規則や労働協約の定めを下回る労働条件で働くという合意しても、その合意は無効となること及び労働協約の定めは就業規則の定めに優先して適用されることを定めています。

  このように、労働条件については労働協約の定めがあればこれに従うことになり、労働協約の定めがなければ就業規則の定めにより決められることになります。

  賞与(一時金)についても労働協約や就業規則で支給時期、金額ないし金額の決定方法(たとえば基本給の○ヶ月分)が具体的に定められていれば、労働者は会社に対してその支払いを求める具体的な権利を有することになります。

  これに対し、就業規則には「業績により年2回賞与を支給する」等の定めがあるだけで、具体的な金額や金額の決定方法が定められていない場合にはどうなるのでしょうか。

  大部分の会社の就業規則には賞与に関する規定がないか、あっても上記のような抽象的な規定しかありません。そのような場合、労働者は賞与の支払いを求めることができるのでしょうか。

就業規則に賞与の規定がなかったり、「業績により賞与を支給する」旨の抽象的な規定があるだけで、賞与の金額や金額の決定方法について具体的な規定がない場合には、賞与の具体的な請求権が就業規則によって保障されていないことになります。このような場合、賞与を支給するか否か、賞与の金額の算定基準や算定方法をどうするのか、査定を反映させるのか否かなどは、労使の交渉または会社の決定により決まることになり、労働者は労使の交渉や会社の決定がなされるまで、労働者が賞与の請求をすることはできないことになります。

労働組合のある会社では毎年春闘時に賞与について交渉をして労使協定(正確には「労働協約」)を締結しています。毎年当たり前のように労使協定が成立して賞与が支給されていたとしても、労使協定は1年間の期限付きのものなので、労使の合意が成立せず労使協定が締結されないかぎり、賞与の請求はできないことになります。

組合がなかったり、組合と会社との賞与に関する合意が成立しない場合には、賞与を支給するか、その金額をいくらにするのかについては会社の決定に委ねられることになります。

裁判例紹介~痴漢により逮捕されたことを理由とする諭旨解雇が無効であるとされた事例~

kiyota
弁護士 清田美夏

(東京地裁平成27年12月25日判決)

  懲戒については、「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合はその権利を濫用したものとして、当該懲戒処分は無効とする。」と定められています(労働契約法15条)。

  つまり、懲戒処分が有効であるためには、(1)就業規則に懲戒事由が定められており、根拠規定があること、(2)労働者が懲戒事由に該当する行為をしたこと、(3)社会通念上の相当性を有することが必要です。(3)相当性は、処分が重すぎるかどうかを、非違行為との比較、前例との比較、他の同種の例との比較を行って判断します。また、弁明の機会を設けるなど、適正な手続きが取られているかという点も考慮されます。

  本件は、鉄道事業会社で勤務していた者が、電車内で痴漢行為(約5分間、14歳女性の臀部及び大腿部の付近を着衣の上から触る行為)を行って条例違反により逮捕され、罰金20万円の略式命令を受け、これを理由に、会社から懲戒処分の一つである諭旨解雇処分を受けたという事案であり、本件処分が無効であるかどうかが争われました。

  本件について、裁判所は、たしかに、痴漢行為が許されないものであるし、鉄道会社が当時痴漢撲滅の取り組みを積極的に行っていたことを考慮すれば、鉄道会社以外の社員が痴漢を行った場合に比べて、一般的には悪影響の程度が大きいといえるとしました。
しかし、本件は、痴漢行為の悪質性が比較的低いものであったこと、本件痴漢行為はマスコミにより報道されておらず、社会的に周知されることはなく、本件行為に関して、会社が社外から苦情を受けたという事実を認めるに足りる証拠もなかったので、本件痴漢行為が与えた具体的な影響の程度は、大きなものではなかったこと、勤務態度には問題はなく、これまで懲戒処分を受けたこともなかったこと、弁護士に依頼して示談を試みたが、成立には至らなかったことなどの事情がありました。

  裁判所は、これらの事情を考慮して、会社が、本件痴漢行為当時に痴漢撲滅に向けた取り組みを積極的に行っていたことや、当時駅の係員として勤務していたという点を考慮してもなお、懲戒処分として、諭旨解雇という身分を失わせる処分は重きに失するとしました。
また、本件では、会社から弁明の機会も十分に与えられておらず、懲戒手続の相当性にも看過しがたい疑義が残るとして、本件処分は社会通念上相当性を欠き、無効であると判断しました。

  本件は、懲戒としてなされた諭旨解雇が無効であると判断された一例にすぎません。懲戒処分の有効性については、ケースによって判断がわかれるので、お困りの方は、一度弁護士にご相談下さい。

裁判例紹介~定額残業代として「営業手当」が就業規則で定められていたとしても、営業手当が実質的に割増賃金の支払いとはいえないとされた事例

miriya
弁護士 守谷自由

東京地判平成24年8月28日(労働判例1058号5頁)

1 定額残業代が定められていたら残業代請求ができない??
労働者は、法定時間外労働を使用者から命じられた場合、労働基準法37条が定める割増賃金を使用者に請求できます。
しかし、残業代が「営業手当」や「職務手当」などの定額手当に含まれていると主張して、残業代の支払いに応じない使用者・会社がいます。
定額手当に定額残業代が含まれると定めれば、それ以上の支払いに応じなくてもよいなどということはありません。このような主張をする使用者・企業は、サービス残業を助長させる、いわゆる「ブラック企業」といえるでしょう。

2 裁判例の判断内容
本件は、営業手当について就業規則に「割増賃金として月30時間相当分として支給する」と記載されていたところ、営業手当の支払いが残業代の支払いといえるか否かについて争われました。
本判決は、(1)実質的に見て、当該手当が時間外労働の対価として性格を有していること、(2)支給時に支給対象の時間労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示され、定額残業代によってまかなわれる残業時間数を超えて残業が行われた場合には別途精算する旨の合意が存在するか、少なくともそうした取扱いが確立していることという2つの要件を必要とすると判断しました。
その上で判決は、本事例において、(1)の要件について、営業手当につき、売買事業部の従業員が顧客と面談する際にかかる諸経費をまかなう趣旨を含んでいたこと、他部署の従業員も時間外残業をしているにもかかわらず、営業手当は支払われていなかったことから、(1)実質的な時間外労働の対価とは認められないとされています。
また、(2)の要件についても、本件の労働者の時間外労働の時間及び残業代を計算した上で、営業手当の支給額以上の時間外残業代を支払わなければならないところ、差額の精算が行われないとして、(2)の要件を満たしていないとし、本件の「営業手当」は定額残業代の支払いとはいえないと判断しました。

3 その他の裁判例の紹介
その他、同様に(1)と(2)の要件をあてはめて判断した裁判例として、a)「営業手当」が割増賃金に相当する部分とそれ以外の部分についての区別が明確となっていないから、割増賃金の支払と認めることはできないとして、営業手当が定額残業代として認めることはできないとした事例(東京高裁平成26年11月26日労働判例1110号46頁)、b)長距離トラックの運転手について「長距離手当」について、割増賃金としての実質を有するとは認められず、また長距離手当のうちで、割増賃金としての実質を有する部分とそれ以外の部分とを判別できないとして、長距離手当の支払いが割増賃金の支払いには当たらないとされた事例(名古屋地判平成28年3月30日)があります。

 

定額手当に「定額残業代」が含まれるからそれ以上残業代を請求できない、と諦める必要はありません。判断に悩む際には、弁護士にご相談ください。


裁判例紹介~耐震診断と更新拒絶の正当事由

saeki
弁護士 佐伯雄三
(東京地裁平成27年2月12日判決 判例秘書登載)

1 事案の概要
Yは、昭和23年ころから、本件建物を賃借し居住し、またタクシー事業者としての営業所としても登録していた。Xは、平成24年に本件建物を買い受け、買い受け後2ヶ月足らずで、Yに対し、本件建物が耐震診断も踏まえ老朽化が著しく建て替えの必要があるとして、6ヶ月後には賃貸借契約が解除される旨の通知をして更新拒絶の意思表示をした。Xは、通知後2ヶ月もしないうちに、明け渡し請求の訴訟を提起した。

2 「正当事由」の論点と裁判所の判断
本判決は、
建物の賃貸人による更新拒絶の通知は、

 (1)建物の賃貸人及び賃借人が建物の使用を必要とする事情のほか、
 (2)建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに
 (3)建物の賃貸人が建物の明け渡しの条件として又は建物の明け渡しと引き換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、
 正当の事由があると認められる場合でなければすることができず、
 正当事由の有無の判断に当たっては、上記(1)を主たる要素とし、上記(2)及び(3)は従たる要素として考慮すべきであり、上記③については、それ自体が正当事由を基礎づける事実となるものではなく、他の正当事由を基礎づける事実が存在することを前提に、当事者間の利害の調整機能を果たすものとして、正当事由を補完するにすぎないと解することが相当である、として、従来からの借地借家法28条の解釈として裁判所が認めている考えをまず示した。

続いて、本判決は、上記(1)の当事者の使用の必要性について、Xは、本件建物の耐震性能に問題があるとして建て替えの必要があるところ、Yのみが明け渡しを拒み、土地の有効利用ができず、賃料収入に比較して高額の固定資産税等の支払いを余儀なくされていると主張したのに対し、固定資産税等の負担が著しく高額とまでは言えず、Xが本件建物にYが居住していることを認識して本件建物を購入したことも併せ考えれば、Xの主張する事情のみで、Xが本件建物を取り壊してその後の土地を利用する差し迫った必要性を認めることはできないとし、一方、Yは、本件建物に居住し生活の本拠とし、また個人タクシー事業を行い、その営業所を本件建物で登録し、本件建物を明け渡さざるを得なくなった場合、個人タクシー事業の営業を継続することは容易ではないといえ、転居すればYの生活にも影響を与える恐れがあり、Yには、本件建物の使用を必要としうる切実な事情がある、として従たる考慮要素である各事情について、それでもなおYの立ち退きを肯定すべき相当程度の事情が認められなければ、正当事由は容易には認められない、とした。

そして、従たる要素の判断として、「本件建物の現況」について、本判決は、耐震診断では東西方向では大地震動で「倒壊する可能性が高い」とされるが、南北方向では「倒壊しない」と評価され、また、本件建物が劣化等によってみるべき構造的欠陥が生じているとは認められず、耐震性能の改善が可能であることからすれば、耐震性能を理由に取り壊しが不可避であるとまでは認めることはできないとし、Xにおいて本件建物明け渡しにつき差し迫った必要性が認められないとして、正当事由があるとは直ちに認められないとした。

さらに、本判決は、「本件賃貸借契約に関する従前の経緯」について、XはYと同じ町内に昭和23年ころから居住し、本件建物の状況を認識していた上、Xは当初からYを立ち退かせ、新築建物を建築する目的で購入したと認められ、Yから立ち退きを拒まれる可能性を十分認識した上で購入したと認めることができるから、Y一人が明け渡しを拒んでいるからといって、Xの更新拒絶に正当事由があると認めることはできないとした。

本判決は、その他の論点にもふれているが、最終結論として、正当事由を肯定するに足りる事情は認めらないとして、Xの請求を棄却した。

3 コメント
耐震性の不足により耐震補強ではなく建て替えの必要性があると判断しつつ、具体的な建築計画がないとして、原告の明け渡し請求を棄却した判決もある(東京地裁平成27年9月17日判決)。また、耐震性能に問題があり建て替えの必要性は認めつつ、それだけでは正当事由を満たさず、一定の立ち退き料の支払いと引き換えに立ち退き請求を認めた判決もある。

耐震性能を理由に正当事由を認めた判決も過去にはある。東京地裁立川支部は、UR都市機構が、いわゆる公団住宅について、当初の耐震改修方針を経済合理性に反するとし改修を断念したとしてもその判断に非合理性はなく、居住者に対し「十分な代償措置」がとられていると認められる以上取り壊しの判断は相当としてURの立ち退き請求を認めた(平成25年3月28日)。

本判決は、Xが、建て替え目的で本件建物を購入し、耐震診断を根拠に明け渡しを求めた事案であるが、判決も指摘するように、長年居住してきたYが立ち退きを拒むことは十分承知して購入したという事実を重視していると思われる点が特徴と言える。


裁判例紹介~特別縁故者の財産分与について

kuwahara
弁護士 桑原至

被相続人の相続財産(総額約1億4000万円)のうち、特別縁故者2名に対し、500万円、2500万円の分与をそれぞれ認めた事例
東京家裁平成24年4月20日審判(判例タイムズ1417号397頁、判例時報2275号106頁)

【解説】

1 特別縁故者とは
被相続人が死亡すると相続が発生し(民法882条)、相続人が被相続人の権利義務を承継するのが原則です(民法896条)。では、相続人が存在することが明らかでない場合はどうなるのでしょうか。
そのような場合、家庭裁判所は、利害関係人(債権者・受遺者・特別縁故者など)又は検察官の請求によって、相続財産管理人を選任し(民法952条1項)、相続財産管理人を通じて相続人を捜索する手続等を行います。その結果、相続人が見つからなかった場合は、被相続人と一定の縁故関係にあった者が相続財産を取得できることがあります。

2 特別縁故者の財産分与
民法958条1項は、相続人が見つからなかった場合、相当と認めるときは、家庭裁判所は、(1)被相続人と生計を同じくしていた者、(2)被相続人の療養看護に努めた者、(3)その他被相続人と特別の縁故があった者の請求によって、これらの者に、精算後残存すべき相続財産の全部または一部を与えることができると規定しているのです。これを特別縁故者に対する相続財産分与といいます。
では、どういう場合に特別縁故者と認められるのでしょうか。上記の(1)「被相続人と生計を同じくしていた者」と(2)「被相続人の療養看護に努めた者」は比較的イメージをしやすいのですが、(3)「その他被相続人と特別の縁故があった者」はやや漠然としています。

3 審判内容
上掲の審判では、相続人ではなく、(1)「被相続人と生計を同じくしていた者」でも(2)「被相続人の療養看護に努めた者」でもない者が、(3)「その他被相続人と特別の縁故があった者」に該当するかどうかが問題になりました。申立人のうち一人(第一事件申立人)は被相続人の姉の長男の妻で、もう一人(第二事件申立人)は被相続人の妻の母親の妹の娘でした。結論としては、両者ともに(3)「その他被相続人と特別の縁故があった者」に該当すると認定され、相続財産の分与が認められました。
第一事件申立人については、申立人の夫が生前、被相続人と親密に交流していて被相続人から財産の管理処分を任せる意向を示されていたこと、申立人自身も夫を通じて被相続人と親密に交流していたこと、被相続人が申立人の夫に財産の管理処分を託する遺言書を書いた旨伝えるなど申立人に対しても一定程度の経済的利益を享受させる意向を持っていたこと等の事情が、第二事件申立人については、申立人が長期に渡って被相続人と交流を続けていたこと、被相続人の自宅の鍵を預かって高い頻度で被相続人の自宅を訪問して家事を行い被相続人の妻の世話をしたこと、被相続人の遺骨を寺に納骨したこと等の事情が考慮されています。
なお、相続財産の分与額については、裁判所は第一事件申立人(500万円)と第二事件申立人(2500万円)とで異なる額を認定しています。被相続人との親密度・縁故の違いが考慮されたのでしょう。
このように、「その他被相続人と特別の縁故があった者」に該当するか否か、該当するとして相続財産の分与額がいくらになるのかは、諸般の事情を考慮して具体的に検討されることになるのです。

4 国庫帰属
特別縁故者への分与が完了してなお余剰がある相続財産は国庫に帰属します(民法959条)。上掲のケースでは全部で約1億4000万円の相続財産がありましたが、特別縁故者二人に分与されたのは合計3000万円だけですので、残り約1億1000万円は国庫に帰属することになります。

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