活動報告

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有馬高原病院事件

弁護士 増田正幸

このたび兵庫県労働委員会(以下「労働委員会」という)に有馬高原病院労働組合(以下「労働組合」という)が不当労働行為救済申立てをしましたので報告します。

1、組合は、神戸市北区にある有馬高原病院に勤務する看護師、病院職員などで構成された労働組合で、病院における唯一の労働組合です。組合員は約170名、組合員資格のある職員の約6割を組織しており、兵庫県医労連に加盟しています。
相手方の医療法人(以下「法人」という)は同一の敷地内に有馬高原病院(以下「病院」という)と介護老人保健施設を開設しており、病院は精神科を中心に約450床を擁しており、医師、管理職を含む職員総数は358名です。

2、組合と法人との間では、2002年5月1日に組合費をチェックオフする書面による合意が成立し、組合費は組合員の賃金から控除されていましたが、法人は組合に対して、2011年3月22日付けで組合が法人病院に対して「協力をする姿勢がうかがえないと認識され」ることを理由に、チェックオフを廃止する旨通告し、本年5月以降組合費のチェックオフは停止されています。また、2011年3月8日に組合役員が行ったビラ配布に対して法人は同年6月に懲戒処分をしました。そこで、チェックオフの再開と懲戒処分の撤回を求めて労働委員会に救済申立てをしました。

3、本件不当労働行為に至る経緯

(1)定期昇給の停止と兵庫県労働委員会の調停
法人においては、就業規則、給与規定にもとづき毎年定期昇給が実施されていましたが、人事考課制度を導入することをもくろんだ法人は、給与規程の改定作業に入ることを理由に(給与規程を改定しないまま)、2003年4月には定期昇給を一方的に中止しました。明らかな賃金規程違反であり、組合は2004年1月28日に労働委員会に調停を申し立て、2003年の定期昇給を実施することで、併せて、労使が賃金検討委員会を発足させ、給与規程の改訂について検討し、2005年4月実施を目途に、合意を目指すものとすることなどを内容とする調停が成立しました。この調停にもとづき2004年3月賃金制度検討委員会が発足しました。

(2)賃金制度検討委員会は2004年3月から2005年1月までほぼ月1回開催されましたが、法人は、総人件費の抑制とそのための人事考課制度の導入を前提に議論を進めようとするのに対して、組合は人事考課制度の導入に反対し、かりに人事考課制度導入したいのであれば、具体的な賃金規程の改定案を提示することや人事考課制度以外の現行賃金制度の問題点についても検討の対象とすべきこと等を主張し、両者の意見が平行線をたどったため、2005年1月、組合は賃金制度検討委員会で議論を続けても合意に至ることは難しいと判断し、同委員会から脱退することと、今後は団体交渉で協議を続ける旨を通告しました。

(3)その後、人事考課制度に導入については、法人から組合に対する新たな提案は何もありませんでしたが、2007年10月法人から組合執行部に対して、新人事制度について組合の執行部を対象に、人事コンサルタント業者による説明会及び協議を開催すること、組合が応じない場合は新人事制度を実施することが通告されました。組合は人事考課制度の導入には反対であることを表明し、これに応じませんでした。

(4)ところが、2009年10月22日に法人は組合の反対を押し切って職員全員に対して、「病院機能評価の指摘により来年8月までに人事考課の導入を図る必要があること」を表明し、その試験的導入のための説明会を開催し、その上で、人事考課を試行することとして、職員に対して人事考課自己申告用紙を配布して、それに記入して同年10月末日までに提出することを求めました。
組合は人事考課自己申告用紙の提出に協力しないこと及び組合員に対して同申告用紙の提出を強要しないことを申し入れましたが、早くも2009年11月には看護師長が組合員である部下の看護師4名に自己申告用紙の提出を強要する事件が起りました。

(5)結局、多数の組合員のみならず非組合員も人事考課自己申告用紙を提出しなかったため、2010年3月、法人は「人事考課導入は終了した」旨の通知を掲示しました。

(6)病院機能評価というのは、「病院組織の運営と地域の役割」「患者の権利と安全確保の体制」「療養環境と患者サービス」「医療提供の組織と運営」「医療の質と安全のためのケアプロセス」「病院運営管理の合理性」等の項目について審査し評価するもので、ホテルやレストランがミシュランの「三つ星」をもらったり、工場がISOの認定を受けたりするのと同様の制度です。(この制度は1995年に開始されましたが、診療の内容についての評価ではないために認定を受けても増収につながるわけではなく、認定を受ける病院の数は伸び悩み、認定を受けている病院は3割に充たず、新たに審査を受ける病院が減少する一方で、認定の更新を見合わせる病院も増加していると言われています)

(7)2010年7月、法人は次の病院機能評価に向けて、主任以上の職員を集めて、方針を示したが、その中で医師・管理職以外の職員に対して人事考課が実施されていないことを問題視し、「イデオロギーベースの組合存在は病院に必要がないことをいかに全体に理解させるか、この点が最大の課題。組合不要となるべくの昇進・昇級及び給与システムの策定が必要」であるとして、人事考課制度導入のために、その支障となる組合の影響力を排除することも含まれていました。

4、チェックオフの中止
このような対立の中で、法人は前記のとおりチェックオフを一方的に中止しましたが、法人はその理由として、組合が人事考課の導入に協力せず、逆に人事考課に対して抗議文を提出したり、ビラ等を配布していることを挙げて、「唯我独尊的行動に終始」していると非難しています。
チェックオフ制度は労働組合の運営にとって不可欠とはいえないにしても、きわめて重要な意義を有しており、これまで8年間を超える期間行われてきたチェックオフを事前の協議を全くしないままに突然打ち切ることが支配介入の不当労働行為(労働組合法7条3号)となることは明らかです。

5、さらに、法人は2011年3月8日の昼休みと終業後に組合の副執行委員長と書記次長が同一敷地内にある老健施設で休憩ないし終業後の同施設職員に対してバトミントン部の活動への参加を勧めるビラを配布したことに対して、「上司の許可なく老健施設に侵入」したとして、始末書の提出を求め、これに応じない両名に対して、就業規則所定の服務規律に違反したとして2011年6月に「戒告・けん責」処分に付しました。
就業規則には就業時間中の職場を離脱したり、他の部署の業務に支障を与えることを禁ずる規定はありますが、休憩時間や終業後中の行動を規制する規定はありません。職場におけるビラ配布に法人の許可を要する旨の規定がありますが、本件のビラ配布はビラの内容、枚数、休憩時間や終業後に行われたものであることなど、法人の職場規律を乱すおそれはないことは明白で、上記懲戒処分は就業規則上の根拠を欠く違法な処分というべきで、組合役員に対する不利益取扱(労働組合法7条1号)に該当することは明らかです。

6、労働委員会の調査が始まったばかりですが、みなさんのご支援をよろしくお願いいたします。

(民法協・兵庫県民主法律協会ニュース 2011・7・20)

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