活動報告

◆バックナンバー


活動報告トップ>その1>その2>その3

高年齢者の雇用について その3

弁護士 増田正幸

その2に引き続き、今回は継続雇用制度をとっている企業において、どのような問題が起こり、どのような紛争が生じているかを紹介します。

継続雇用制度をめぐる紛争の類型継続雇用制度とは「現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度」(高年法9条1項2号)であり、原則として希望者全員の雇用継続が前提になっています。

しかし、高年法9条2項は、当該事業所に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労傷者の過半数を代表する者との書面による協定により、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることを認めています。したがって、労使協定で選定基準を定めれば、継続雇用を希望する者の中から基準を充たす労働者だけを継続雇用することが可能になります。

さらに、高年法は附則5条で、従業員数300人を超える大企業にあっては2009(平成21)年3月31日まで、従業員数300人以下の中小企業にあっては2011(平成23)年3月31日までは、事業主が労使協定を締結するための努力をしたにもかかわらず協議が調わないときに限り、就業規則で継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定めることを許しています。

そこで、使用者が継続雇用制度を導入に際して、労使協定や就業規則で労働者の選定基準を定め、その選定基準にもとづいて継続雇用を拒否した場合にその選定基準の効力が争われることになります。

すなわち、[1]選定基準を定める手続が適正ではない、あるいは[2]選定基準の内容が法の趣旨に反しており無効であるという争いが生じます。さらに、[3]選定基準を定める手続や基準そのものには問題がない場合でも選定基準の適用の仕方が公正ではないとして、選定基準にもとづく継続雇用の拒否が争われています。

選定基準を定める手続の不備が争われたケース選定基準を定める手続の不備が争われたケースの1つに、京濱交通(地位確認・賃金支払請求)事件(横浜地裁川崎支部平成22年2月25日判決)(判決確定後の賃金請求を除いて請求認容)がありますので、ご紹介します。

(1)タクシー会社である被告においては、労働組合が複数あり、労働者の過半数で組織する労働組合がなく、また、労働者の過半・数を代表する者を選出することもできない状況にあったことから、就業規則で、かなり細かく、しかも厳しい選定基準を定めていました。

タクシー乗務員であった原告は、本件就業規則に規定する本件再雇用基準の内の「過去5年間の出勤率90%以上」、「過去5年間の1日当たりの平均営業収入3万3000円以上、平均走行キロ240km以上」という基準を充足していないとして、継続雇用を拒否されました。

原告が高年法9条2項所定の労使協定が締結されていないと主張したのに対して、被告は、被告においては労働組合が多数あるために労働組合の分担会員数の過半数との間で協定を締結すれば労使協定として有効に成立するという労使慣行があったと主張したため、就業規則で定めた再雇用基準の有効性が争われました。

(2)裁判所は、「高年齢者雇用安定法9条2項は、高年前者雇用確保措置としての継続雇用制度を導入するに当たっては、同条1項2号により、原則として、現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度の導入が求められるところ、事業所の実情に応じて上記原則的措置を一定程度柔軟化する必要性がある一方で、こうした柔軟化か不適切な形で行われることによって生じる、事業主による恣意的な対象者の限定などの弊害を防止するために、すべての労働者の過半数の団体意思を反映した上でかがる柔軟化を行うこととし、そのための手続的担保として、労働者の代表による関与、すなわち、当該事業所に労働者の過半数で組織する労働組合がある場合においてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がない場合においては労働者の過半数を代表する者との書面による協定により、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入することを要件としたものと解することができる」という立場から、被告の主張する方法による労使協定の締結が長期間行われていたとしても、上記の高年法9条1項2号所定の継続雇用制度の導入の趣旨目的に照らせば、本件継続雇用制度の導入に当たってはこれを労使慣行として有効であると認めることはできないと判示しました。

(3)また、本件継続雇用制度の導入に当たって労働者の過半数を代表する者は選出されていなかったし、被告が労働者側に対して、労働者の過半数を代表する者を選出するように要請することもしていなかったから、被告は、高年齢者雇用安定法9条2項に規定する協定をするため努力をしたにもかかわらず協議が調わなかったものと認めることもできず、本件就業規則は高年法附則5条1項の要件も具備していないと判示し、本件継続雇用制度の導入を定める本件就業規則は、手続要件として高年齢者雇用安定法9条2項の要件を満たしておらず無効であるとして、原告に労働契約上の地位を認め、再雇用拒否当時の賃金の支払を命じました。

(4)結局、判決は、原告と被告との間に再雇用拒否当時の賃金相当額を賃金とする再雇用契約が成立していることを認めたことになります。しかし、本件就業規則の選定基準が原告に適用されないということから当然に再雇用契約の成立することにはならないはずであり、どうして直ちに原告と被告との労働契約の成立を認めることができるのかについては明らかではありません。高年法9条1項の規定に私法的効力を認めて、同条を根拠に労働契約の成立を認めたと考えるほかないようです。

7 選定基準の内容が争われたケース

(1)選定基準として定められた基準自体の当否が争われた事件の1つに、日通岐阜運輸(地位確認・賃金支払請求)事件(岐阜地裁平成20年9月8日判決)(請求棄却)があります。

[1] 日通岐阜運輸では、過半数労働組合との間の適法な手続にもとづ馳労使協定を締結して次のような再雇用の基準を定めていました。

i 「品質関係基準」

a 「過去1年間で所属セクション内での順応、セクション内のチームワークの維持に問題がないこと」

b 「過去1年間で会社資産である車両、備品の取り扱いに問題がないこと」

ii 「人事評価基準」

過去2年間の賞与の査定について1回でもCランクと査定されたことがないこと

[2] 原告は少数組合(建交労)の役員でしたが、被告は、原告が車両説輸事故及び車両接触事故を起こしたり、顧客からの苦情があったために「品質関係基準」を充たさないこと、また、これらを理由に過去2年間に2回C査定を受けたことにより「人事評価基準」も充たさないこと、を理由に再雇用を拒否しました。

[3] そこで原告は、「品質関係基準」は内容が抽象的であること、「人事評価基準」については賞与の査定の具体的な内容が労働者に明らかにされておらず、客観性も予測可能性も全くないことなどを理由に選定基準の効力を争いましたが、裁判所は選定基準の適法性を認めて請求を棄却しました。

(2)同様に、兵庫民法協の会員である郵政産業労組の組合員が郵便事業株式会社の継続雇用の基準を定めた労使協定の内容について、その効力を争い、現在、神戸地方裁判所で審理が係属中です。この事件では、とくに継続雇用希望者に対する「面接試験の評価が著しく低いこと」を継続雇用拒否の理由とすることの当否が争われています。

(事案の詳細については民法協ニュース第503号を参照して下さい)。

8 選定基準の不公正な適用が争われたケース

つぎに、選定基準を定める手続や基準そのものには問題はないが、選定基準が差別的に適用されたことを理由に継続雇用の拒否の効力が争われる場合があります。

(1)日本ニューホランド(地位確認・賃金支払・損害賠償請求)事件(札幌地裁平成22年3月30日判決)(一部認容)

[1] 被告は、従業員数577名の農業用機械器具の販売及び輸出入業務等を目的とする会社です。被告には、多数組合と原告を中央執行委員長とする少数組合(以下「甲野組合」といいます)とがありました。

被告は多数組合と協議をした上で、就業規則で定年退職者の再雇用制度を設け、再雇用の基準を定めました(以下「本件規程」といいます)。

なお、本件では再雇用基準は労使協定ではなく就業規則で定められていますが、手続の不備については争いになっていません。

[2] 被告が原告に対する本件再雇用拒否を行った理由は、

i 本件再雇用制度は、多数派組合と合意の上、所定の手続を経て、実施しているが、甲野組合及び原告は本件再雇用制度に反対していること、

ii 本件再雇用制度は、平成17年に実施された就業規則の変更によって設けられたものであるが、甲野組合及び原告は、平成17の就業規則変更が不利益変更であり無効であるとして同規則の有効性を争って提訴し、札幌地裁及び札幌高裁が平成17年規則は甲野組合及び原告には適用されない旨判示しているから、本件再雇用制度は原告に適用されないこと、

iii 仮に本件再雇用制度が原告に適用されるとしても、原告は、本件規程の再雇用可否の判断基準(「直近3年間のインセンティブ評価が5以上であること」)のいずれにも該当しない。
という3点でした。

[3] i について、判決は、「札幌地裁及び札幌高裁は改正就業規則のうち給与及び賞与の減額につながる部分(不利益変更に該当する部分)の効力について判示しているにすぎず、本件再雇用制度が原告に適用されない旨を判示しているわけではない。原告ほか甲野組合の従業員も、あくまでも給与及び賞与の減額につながる就業規則の改定が不利益変更に該当すると主張しているにすぎず、本件再雇用制度の新設自体に反対しているわけではない。そして、本件再雇用制度は、被告の全従業員にとって有利な制度であることが明らかであるから、当然に被告の全従業具に対して適用されると解するのが相当である。」と判示しました。

[4] ただし、判決は原告の地位確認については次のとおり述べて、認めませんでした。

「本件再雇用制度における再雇用契約とは、被告を定年退職した従業員が被告と新たに締結する雇用契約である。そして、雇用契約において賃金の額は契約の本質的要素であるから、再雇用契約においても当然に賃金の額が定まっていなければならず、賃金の額が定まっていない再雇用契約の成立は法律上考えられない。ところで、本件再雇用制度の内容を定めた本件規程によれば、再雇用契約における賃金は、再雇用時の従業員の能力・担当する職務、勤務形態等を基に個々に決定されることになっている。したがって、定年退職時の雇用契約における賃金がそのまま再雇用契約における賃金となるのではなく、再雇用を希望する従業員と被告の合意により再雇用契約における賃金の額が定まることになる。そして、本件において被告は、原告と再雇用契約を締結することを拒否しており、再雇用契約における賃金の額について何らの意思表示もしていない。そうすると、仮に本件再雇用拒否が無効であるとして仁原告と被告の間で締結される再雇用契約における賃金の額が不明である以上、原告と被告の間に再雇用契約が成立したと認めることはできない」

[5] しかし、他方で、判決は本件再雇用制度が新設されてから本件再雇用拒否がなされるまで被告に再雇用を拒否された従業員はいないことや原告が甲野組合の執行委員長として、被告と対立路線を歩み、その間、いくつかの労使紛争の解決を裁判所や北海道労働委員会に申し立ててきた考であるという認定を前提に、原告に対する再雇用の拒否の理由として、第一次的には、甲野組合及び原告が本件再雇用制度に反対していること、甲野組合及び原告が本件再雇用制度の根拠となっている就業規則の有効性を争ったこと等、原告ほか甲野組合の従業員の合理的意思並びに高年法9条及び本件再雇用制度の趣旨に明らかに反する失当な理由を挙げていることからすると、本件再雇用拒否は、それまで被告と対立路線を歩んできた原告に対して不利益を与えることを目的としてなされたものと強く推認されると判示しました。

[6] また、かりに本件規程が原告に適用されるとしても、原告に対するインセンティブ評価が低くて再雇用の基準を充たさないという被告の主張に対しては、「インセンティブ評価は、従業員の勤務成績及び勤務態度だけでなく、被告の営業利益の額も考慮して決定されることになっているから、会社の営業利益が少ないときは、いくら従業員の勤務成績及び勤務態度が良好であっても、インセンティブ評価が低くならざるを得ないこと、また、従業員の勤務成績及び勤務態度によって決定される部分についても どのような項目をどのようなウエイトで評価するのか、従業員の達成度合をどのように評価するのかについて何ら基準が設けられておらず、もっぱら評価権者の主観によって決定されているため、評価権者によっては相当厳しい評価がなされる可能性がある。このような問題点からすると、インセンティブ評価を再雇用の判断基準で用いることについては、高年法9条の趣旨に照らし、なお問題があるというべきである」として、インセンティブ評価自体に疑問を呈し、その上で、原告は、本件規程の他の要件(「自宅もしくは自己が用意する住居より通勤可他者であること」)に該当すると認められるから、本件規程の再雇用可否の判断基準を充たしていたと認められると認定しました。

[7] 結局、本件再雇用拒否は、原告に対して不利益を与えることを目的としてなされたものと認められ、本件再雇用拒否が権利の濫用に該当し、かつ、原告に対する不法行為に該当することは明らかであるとして、不法行為に基づく損害賠償請求を認容しました。

[8] 原告の損害額については、「原告は、本件再雇用拒否によって被告との間で再雇用契約を締結する機会を奪われたと認められるから、原告にはその機会を奪われたことによる財産的及び精神的損害が発生したというべきである。本件再雇用拒否の違法性の程度(本件再雇用拒否は、原告ほか甲野組合の従業員の合理的意思並びに高年法9条及び本件再雇用制度の趣旨に明らかに反しており、違法性の程度は高いというべき)、原告と被告との間で再雇用契約が締結された可能性の程度(賃金額で合意できる可能性は低かった)、原告と被告との間で再雇用契約が締結された場合に原告が取得することができたと推認される経済的利益の額(だだし、正確に認定することができない)及びその額を取得することができなくなったことによる原告の精神的苦痛の程度等、本件に顕れた一切の事情を総合考慮し」、原告の相当な損害額を550万円と認定しました。

(2)財団法人東京大学出版会(地位確認請求のみ、賃金支払は請求せず)事件(東京地裁平成22年8月26日判決)(請求認容)

 [1] 被告は労働組合と再雇用就業規則の制定に向けて協議することとし、再雇用就業規則案を示し、再雇用就業規則の運用に当たっては、再雇用を希望する定年退職者を排除的に運用しないという説明をしました。これに対して、労働組合は再雇用就業規則の文言が法の趣旨を損なうものではないことや被告の説明を好意的にとらえ、再雇用就業規則の実際の運用例について被告が組合の求めに応じて、希望状況、就労条件などの情報を提供すること、及び、再雇用就業規則の運用にあたって問題が生じた場合には組合と被告とが協議する旨の協定を締結しました。しかし、労使協定によって継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準は定められませんでした。

[2] 被告の再雇用就業規則では、再雇用の基準について、

i 健康状態が良好な者
ii 所定の勤務口、勤務時間に勤務が可能な者
iii 再雇用者として通常勤務ができる意欲と能力がある者
 という定めを置いていました。

[3] なお、再雇用就業規則の実施後に再雇用の対象となった定年退職者の内、原告以外に再雇用を拒否された者はいませんでした。

[4]被告は、原告の再雇用申し出に対して、就業規則に定める誠実義務及び職場規律に問題があったため、「再雇用者として通常勤務ができる能力がない」として、再雇用申請を拒否しました。

[5] 判決は、「継続雇用制度の導入に当たっては、各企業の実情に応じて労使双方の工夫による柔軟な対応が取れるように、労使協定によって、継続雇用制度の対象となる高年齢者に係る基準を定め、当該基準に基づく制度を導入したときは、継続雇用制度の措置を講じたものとみなす(法9条2項)とされており、翻って、かかる労使協定がない場合には、原則として、希望者全員を対象とする制度の導入が求められているものと解される」とし、「高年法の趣旨、再雇用就業規則制定の経過及びその運用状況に鑑み、再雇用就業規則所定の要件を満たす定年退職者は、再雇用就業規則の取扱及び条件に応じた再雇用契約を締結することができる雇用契約上の権利を有するものと解するのが相当であり、再雇用就業規則の要件を満たす定年退職者が再雇用を希望したにもかかわらず再雇用拒否の意思表示をすることは解雇権濫用法理の類推適用によって無効になる」という考え方を示しましたが、本件では前記の京濱交通事件のように再雇用基準についての労使協定がないことを問題にして直ちに再雇用就業規則の効力について述べるのではなく、原告について、再雇用就業規則の「再雇用者として通常勤務ができる能力がない」という被告の主張の当否を検討しています。

[6] 被告は、再雇用基準とされている「能力」に協調性や規律性等の情意(勤務態度)が含まれているとして、原告が被告の方針に従わずに懲戒処分を受けたことや原告の協調性の欠如を再雇用拒否の理由にしましたが、判決は、再雇用就業規則の制定経過、目的、再雇用就業規則の各要件の配置及び文言からすると、定年退職者が再雇用されるための条件としての「能力」とは、その中心的なものとして、当該職務を遂行する上で備えるべき身体的・技術的能力をさすものと解するのが相当であるが、当該職務そのものの内容や性質のほか、職務遂行に必要な環境及び人間関係に照らして、当該職務を遂行する上で備えるべき身体的・技術的能力を計るに当たって、協調性や規律性等の情意(勤務態度)についてもその要素として考慮しなければならない場合もあるものといえると判示して被告の主張を容れた上で、原告の編集者としての職務上の知識や経験は申し分なく、当該職務を遂行する上での技術的能力を備えていることは否定できないし、健康状態にも問題がないことを認定し、被告の主張する点は編集者としての職務を遂行する上で支障を来すほどの深刻な服務規律違反とは認められず、原告にはその職務を遂行する上で備えるべき身体的・技術的能力を減殺する程度の協調性又は規律性の欠如が認められるということはできず、再雇用就業規則所定の「能力」がないと認定しました。

[7] そして、本件再雇用拒否は原告が再雇用就業規則所定の要件を満たすにもかかわらず、何ら客観的・合理的理由もなくなされたものであって、解雇権濫用法理の趣旨に照らして無効であると判示して原告の地位確認を認めました。

(つづく)

(民法協・兵庫県民主法律協会ニュース 2010・11・20)

▲ページの先頭へ戻る

活動報告トップ>その1>その2>その3

▲ページの先頭へ戻る

「活動報告」トップへ戻る