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高年齢者の雇用について その2

弁護士 増田正幸

その1では、平成6(1994)年の高年法改正により60歳未満の定年が禁止されたことを述べました。今回は、60歳に達した労働者のその後の雇用確保について述べます。

4 高年法による高年齢者に対する雇用確保

(2)65歳までの雇用の確保

65歳までの雇用確保は,すでに平成2(1990)年改正によって使用者の努力義務であることがうたわれていましたが、ようやく平成16(2004)年の法改正によって、使用者の法的義務とされました(改正法の施行は平成18(2006)年4月)。 60歳で定年を迎えた労働者の60歳以降の雇用保障は実に16年もの努力義務期間が置かれた後、ようやく法的義務に高められたのです(さらに、改正法が施行されるまでに2年間の猶予期間が設けられました)。

高年法8条が60歳未満の定年制を排除した上で、高年法9条1項は、65歳未満の定年を定める事業主に対して、次のいずれかの措置(高年齢者雇用確保措置)をとることを義務づけています。すなわち、使用者は、[1]当該定年の引上げ(1号)、[2]継続雇用制度(現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度をいう)の導入(2号)、[3]当該定年の定めの廃止(3号)のいずれかの措置をとることによって、労働者の65歳までの雇用を確保することを法的に義務づけられたのです。なお、雇用確保が義務づけられる年齢は、年金支給開始年齢の引き上げに応じて,平成18(2006)年度62歳、平成19(2007)から21(2009)年度63歳、平成22(2010)から24(2012)年度64歳とされています。

厚労省の調査(「高年齢者雇用確保措置の実施状況」(2009年6月1日現在))によれば、上記のいずれかの高年齢者雇用確保措置を実施している企業の割合は95.6%(51人以上規模の企業では97.2%)(大企業では98.7%、中小企業では95.3%)と、ほとんどの企業が高年齢者雇用確保措置を実施していることになっています。その中でも、定年の定めを廃止した企業は2.9%(51人以上規模の企業では2.0%)、定年を引き上げた企業は15.1%(51人以上規模の企業で12.8%)、継続雇用制度を導入した企業は82.1%(51人以上規模の企業で85.1%)となっており、大部分の企業は高年法9条1項2号の継続雇用制度を採用していることになりますが、実際にも高年齢者雇用確保措置に開する法的紛争の大部分は継続雇用制度をめぐるものです。

継続雇用制度とは「現に雇用している高年齢者が希望するときは、当該高年齢者をその定年後も引き続いて雇用する制度」(高年法9条1項2号)です。この法文からは労働者が希望しさえすれば、希望者全員を継続雇用の対象にすべきことが明らかにされています(希望者全員雇用の原則)。

ところが、法改正の際に、使用者側から、企業の規模や経営状態にかかわらずすべての企業に一律に希望者全員の継続雇用を義務づけることについて強い反発が出て、改正高年法は、労使協定で対象者の基準を定めれば、希望者の中から継続雇用する者を選定することを許容するという大きな例外を認めました。ただし、選定基準を設けるためには労使協定の締結が必要ですから、事業場の労働者の過半数を組織する労働組合がある場合にはその労働組合、過半数を組織する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者との書面による協定を結ばなければなりません。さらに、これについても経過措置が定められ、平成21(2009)年3月31日まで(労働音数が300人以下の中小企業については平成23(2011)年3月31日まで)は、労使協定締結の努力をしたにもかかわらず協議が調わないときには就業規則で選定の基準を定めることが認められています(高年法附則5条、施行令附則4項)。

前記の厚労省の調査によれば、継続雇用制度を導入した企業のうち、希望者全員の継続雇用制度を導入した企業は41.8%(51入以上規模の企業で38.0%)、対象者となる高年齢者に係る基準を労使協定で定め、当該基準に基づく継続雇用制度を導入した企業は43.6%(51入以上規模の企業で48.4%)、労使協定の締結に向けて努力したにもかかわらず協議が調わず、法に基づく特例措置により就業規則等で基準を定め、当該基準に基づく継続雇用制度を導入した企業は14.6%(51入以上規模の企業で13.6%)となっており、全体の58.6%が選定基準を設けて継続雇用を希望する者の中から対象者を選定していることになっています。そのために、選定基準の定め方や運用についての紛争もよく起こっています。

(3)高年法9条の性格

高年法は、使用者が同法9条1項に違反した場合は厚労大臣(職業安定所)が指導・助言をすることができ(同法10条1項)、指導・助言に従わない場合には勧告することができることとされ(同法10条2項)、国が厚労大臣に指導・助言・勧告といった行政上の措置をとる権限を与えている法律です。同じように、たとえば労働基準法も同法違反に対しては行政機関である労働基準監督署の助言・指導・勧告の権限を与えています。このように行政機関に助言・指導・勧告などの権限を与える法規を「取締法規」といい、取締法規が行政機関に権限を与えることを公法的効力といいます。取締法規はこのように公法的効力を有するがけなので、取締法規に違反している私人間の契約に対して当然に効力を及ぼすとは限りません。ある法規に違反する契約が無効になる場合に、その法規のことを前記の取締法規に対して「強行法規」といい、強行法規に反する場合に契約が無効になることを私法的効力といいます。

前記のとおり労働基準法は取締法規ですが、労基法に違反する労働契約は原則として私法上も無効(たとえば、所定労働時間を1日10時間とする労働契約は8時間を超える部分については無効)だとされています。それは、労基法が開法13条で「この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする(私法的効力)。この場合において無効となった部分はこの法律で定める基準による(補完的効力)」という規定を置いて、労基法に違反する場合には労使の間の労働契約も無効となり、無効となった部分に労基法の定める基準を補充することが明らかにしているからです。このように労基法は取締法規でありながら、同時に強行法規でもあるのです。以下には、高年法9条に違反する労働契約の効力が問題となるケースを紹介しますが、高年法には労基法13条のような規定がないために、そこでは高年法9条が(取締法規であることを前提に)強行法規でもあるのか否か(私法的効力を有するのか否か)についての争いが大きく影響することになります。

5 継続雇用制度をめぐる法的諸問題

(1)高年齢者雇用確保措置がとられていない場合

[1] 改正高年法の施行にもかかわらず、9条1項にあげる3つの高年齢者雇用確保措置のいずれもとられていないとして争われた代表的な例がNTT西日本事件です。

[2] NTT西日本は、同社の従業員の大多数を組織するNTT労働組合と協議の上、平成15年3月31日時点で満51歳となる従業員を対象者として、対象者のその後の処遇について、平成14年1月4日から同月31日までの間に、「退職・再雇用」型と「60歳満了」察の、いずれかを選択することを求め、いずれも選択しない者については60歳満了察を選択したものとみなすことにしました(なお、それまでNTTにおいては、独自の制度として65歳までの雇用延長を可能にする「キャリアスタッフ制度」がありましたが、その制度は同時に廃止されました)。

「退職・再雇用」型とは、平成14年4月30日にをもってNTT西日本を退職し、同年5月1日に新たに設立された(子会社である)地域会社に雇用され(所定内給与が20〜30%下がる)、60歳定年後は最長65歳まで、期間を1年とする契約社員として地域会社に再雇用される(「会社の業務上の必要性及び本人の希望により」更新される)というものであり、「60歳満了」型とは、地域会社には転籍せずに(地域会社以外の在籍出向、広域配転はあるが)NTT西日本で60歳まで勤務する者で、NTT西日本には定年再雇用制度はないため、定年後の継続雇用の遠はないというものでした(結局、NTT西日本には改正高年法の施行後も高年齢者雇用確保措置のいずれも行われていないことになります)。

このようなNTT西日本の求めに対して、実に対象者の98.4%が「退職・再雇用」型を選択しました(なお、対象者の中でいずれも選択しないためNTT西日本に残された労働者の中で遠隔地や異職種に配転された労働者が、そのような配転の効力を争った訴訟では、札幌高裁や大阪高裁などで勝訴判決が出ています)。

[3] その後、NTT西日本は、支店機能が地域会社に大幅に移行する等、事業環境が著しく変化することを踏まえて、平成17年3月31日時点で51歳〜59歳の同社従業員を対象に再度「退職・再雇用」型、「60歳満了」型について選択する機会を与えました(いずれも選択しない者については「60歳満了」型を選択したものとみなすことにした)。

[4] このときいずれも選択しなかった労働者は「60歳満了」型を選択したものとみなされ、満60歳に遠した際にNTT西日本は定年退職したものとして取り扱いましたが、これら労働者には定年後の雇用継続の途が全くありませんでした。

そこで平成19年ないし同20年に定年退職扱いをされた労働者が、NTT西日本を被告として、同社が高年法9条にもとづく継続雇用を確保すべき義務に違反しているとして損害賠償ないし地位確認請求訴訟を提起しました(徳島地判平成21年2月13日、大阪地判平成21年3月25日、大阪高判平成21年11月27日など)。

[5] NTT西日本の制度は、労働者が選択する時期が60歳よりもかなり以前であること(50歳時点)、制度そのものは改正高年法の施行前のものであること、自社で再雇用するのではなく転籍が再雇用の前提になっていることが特徴的です。

裁判では、第1にNTT西日本は高年法9条により、原告らに対して継続雇用制度を導入する義務ないし継続雇用をする義務を負っているのに、この義務を怠ったといえるのかどうか、すなわち、高年法9条が使用者の労働者に対する継続雇用の義務を定めた規定なのか否か(高年法9条の私法的効力)が争点になりました。第2に、被告NTT西日本が高年齢労働者に対して継続雇用制度を整えている地域会社に転籍する機会を与え、転籍すれば定年後の雇用継続が可能となったことをもって、高年法9条1項2号の継続雇用制度を導入したといえるか否かについても争われました。

[6] 第1の高年法9条が使用者の労働者に対する継続雇用の義務を定めた規定なのか否かという問題は、高年法9条に「私法的効力」を認めるのか否かということです。前記のとおり、高年法の法文上は高年法9条1項違反については同法10条が厚労大臣の助言・指導・勧告しか定めておらず、高年法9条1項に反する労働契約が無効であることは明示されていません。そこで、高年法9条は国が行政機関に対して、使用者に対する職権発動(助言・指導・勧告)の根拠とする法律(取締法規)(公法的効力)ではあるが、直接、私人である労使の問には適用されず、労働者に対して使用者に対する継続雇用を求める権利ないし継続雇用制度を導入させる権利までも与える(強行法規)(私法的効力)ものではないという考え方が学説でも多数です。

[7] NTT西日本事件では、裁判所も高年法9条の私法的効力を否定しました。その理由は、

i 高年齢者の雇用確保という社会政策を実現するための法律で公法的性格を有していること
ii 同条1項の法文は国が事業主に対して公法上の義務を課す形式をとっていること
iii 同項各号の排泄に伴う労働契約の内容ないし労働条件について具体的に規定しておらず、同項2号の継続雇用制度についても多用な制度が可能になるような規定しか設けておらないために、同条違反の場合に具体的にどのような制度を設ければ違反が是正されるのかについては法律上は明らかでなく、私法上の効力が発生するというほどの具体性を備えていないこと
iv 同条2項は労使協定により選定基準を設けることを許容し、高年齢者が希望しても継続雇用しないことを容認しており、各事業主が実情に応じて柔軟な措置を講ずることを許容していること
v 同法9条違反に対しては厚労大臣の助言・指導・勧告など緩やかな措置しか定めておらず、企業名の公表や罰則等の制裁が予定されていないこと
vi 逆に、同法は60歳定年制を許容し、労基法13条のような私法的効力や補完的効力を定めた規定もないため、事業主がどのような制度を設ける義務を負っているのかの特定が困難なこと
 などです。

[8] しかしながら、労働法の分野には他にも行政機関に対して、法律違反を是正するための措置や処分の権限を与える規定(取締規定)が多数ありますが、そのような規定について労基法13条のような私法的効力を認める明文の規定がなくとも、解釈上私法的効力が認められていることは珍しくありません。たとえば、労働者派遣法33条は(明文の規定はありませんが)私法的効力を有すること(同条に違反する契約は無効となる)については学説も認めています。

また、前回述べたとおり、60歳を下回る定年年齢が定められている場合には高年法8条に違反するものとして、60歳を下回る定年を定めた労働契約の部分は労使間でも無効になると解釈されています。すなわち、高年法8条が私法的効力をもつことについては争いがないのです。結局、ある条項が私法的効力を有するか否かは、その条項の文言や趣旨や性格を考慮して判断すべきことになります。

[9] 前記のとおり、高年法9条が公法的性格を有することは否定できません。しかし、そのことから直ちに同条が私法的効力も併せもつことを否定することにはなりません。むしろ、(私法的効力を認められている)高年法8条も同法9条1項も「高年齢者等の職業の安定その他福祉の増進」(同法1条)を目的として事業主に一定の作為・不作為の義務を課すという点では異ならないのです。

また、行政指導等によって高年齢者の雇用確保を図ることは高年法改正前に高年齢者の雇用確保措置が努力義務にすぎなかった時から変わっていません。したがって、高年齢者の雇用確保借景が法的義務にまで高められた改正後の高年法9条1項を、単なる行政指導・勧告の根拠規定にすぎないとみなすことは、高年法の平成16年改正の意義を否定するに等しいということができます。 65歳までの雇用確保は、16年をかけて、事業主の単なる努力義務から法的義務にまで高められ、かつ、雇用生活と年金生活の空白期間が生じないようにするために確実な履行が求められていることは明らかです。そうであるならば、高年法改正における立法者の意思は使用者に私法上の義務を課すことにあったと見るのが素直な解釈です。

[10] つぎに、NTT西日本事件では、自社で再雇用するのではなく子会社に転籍した者について子会社の再雇用制度が適用されることをもって、NTT西日本が雇用継続制度を導入しているといえるのか否かが問題になりました。

裁判所は、高年法9条は高年齢者の60歳以後の安定した雇用を確保するという図条の趣旨に反しない限り、事業主がその実情に応じて多様かつ柔軟な措置を講ずることを許容していると解するのが相当であり、また、図法の雇用確保措置によって確保されるべき雇用の形態は、必ずしも労働者の希望に合致した職種・労働条件による雇用であることを要せず、労働者の希望や事業主の実情等を踏まえた常用雇用や短時間勤務、隔日勤務等の多様な雇用契約を含むという解釈を前提に、雇用の確保については、多様な形態による雇用・就業機会の確保が図られることが重要であり、少なくとも同一企業のみならず同一企業グループにおいて継続して雇用・就業の場の確保を図ることも高年法の目的を達する方法・手段として想定されているのであり、「同法9条1項2号で定める継続雇用制度に転籍の方法による雇用継続がおよそ含まれないと解することはできない」と判示しました。

その上で、転籍の方法による雇用継続が許容されるためには、事業主と転籍先との問で少なくとも同一企業グループの関係があることと、転籍後も高年齢者の安定した雇用が確保されるような関係性があることを要件として示しました。そして、NTT西日本事件における地域会社はNTT西日本が全額出資して設立し、NTT西日本と資本的な密接性があり、転籍先の再雇用制度は欠勤日数が一定数に達した者や健康上の問題があるものを除き、基本的に再雇用されることになっていることから、「事業主と転籍先との間に同一企業グループの関係とともに転籍後も高年齢者の安定した雇用が確保されるような関係性が認められる」としたのです。

[11] しかしながら、転籍をさせるということは、その会社との間の雇用契約が終了することを意味しますから、転籍を前提とすることは「定年後も引き続いて雇用する制度」という高年法9条1項2号の文言とはそぐわないのではないでしょうか(「引き続いて」とはいえないでしょう)

転籍には大幅な労働条件の低下が件うことが多いのですが、前記の裁判所の考え方は、再雇用に際して大幅な労働条件の低下を許容することを前提にしています。すなわち、裁判所は「高年齢者の雇用は事業主に相応の負担を生じさせるものであること、また、高年法9条1項2号で定める継続雇用制度は各事業主の実情に応じた柔軟な措置が許容されることを踏まえると、労働条件が低下することや無条件に年金支給開始年齢までの雇用が保障されていないことをもって直ちに同号で定める継続雇用制度に該当しないとまで直ちにはいえない」としています。

[12] なお、NTTの場合には子会社への転籍を前提とする雇用継続の制度がありましたが、たとえば、企業に60歳定年の定めがあるだけで、雇用継続制度の導入など高年齢者の雇用確保措置が一切とられていない場合にはどうなるのでしょうか。

(その3へつづく)

(民法協・兵庫県民主法律協会ニュース 2010・10・20)

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