活動報告

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高年齢者の雇用について その1

弁護士 増田正幸

1 はじめに

わが国の総人口は1億2751万人(平成21年10月1日)で、そのうち65歳以上の高齢者人目は過去最高の2901万人に達しています(男性は1240万人、女性は1661万人)。総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)22.7%であり、前期高齢者(65から74歳)は1530万人(総人口の12.0%)、後期高齢者(75歳以上)は1371万人(総人口の10.8%)です。すでに高齢化率は22,8%に達しており「超高齢社会」なっています。

今後、総人口が減少するなかで、高齢化率はますます上昇すると言われています(平成54(2042)年以降は高齢者人口が減少に転じても高齢化率は上昇することになります)。

そして、平成67(2055)年には高齢化率は40.5%に達し、2.5人に1人が65歳以上、平成67(2055)年には75歳以上人口が給人口の26.5%となり4人に1人が75歳以上ということになります。

平成21(2009)年は、高齢者1人に対して現役世代(15から64歳)は2.8人ですが、平成67(2055)年には、高齢者1人に対して現役世代(15から64歳)1.3人と、世界のどの国もこれまで経験しかことのない高齢社会になることが予想されています。

2 高年齢者の雇用対策

人口が減少する中で、高年齢者であっても健康である限り就労することは社会全体にとっても、高年齢者本人の社会参加という点でもきわめて重要です。

政府は高年齢者の雇用対策として、
[1]定年の引上げ、継続雇用制度の導入等による高年齢者の安定した雇用の確保の推進
[2]中高年齢者の再就職の援助・促進
[3]高年齢者の多様な就業・社会参加の促進
などの対策を掲げています。

[1]については、高年齢者雇用安定法(「高年法」)に定める高年齢者雇用確保措置が周知され、導入が促進されることが中心課題です。[2]については、雇用奨励金や助成金による再就職の促進や募集・採用時の年齢制限の禁止などが挙げられています。[3]については、シルバー人材センター事業が重要な役割を果たしています。

ところで、前記のとおり「高齢者」というのは65歳以上を指しますが、雇用確保が問題となる「高年齢者」というのは、55歳以上の者(高年法2条、同法施行規則1条)を指します。また、高年法では45歳以上を「中高年齢者」(高年法2条、同法施行規則2条)としています。

4 高年法による高年齢者に対する雇用確保

最初に、高年法による高年齢者に対する雇用確保について述べます。

(1)定年年齢の制限

[1]定年制は、労働者が一定の年齢に達したときに労働契約が終了する制度です。定年到達前の退職や解雇が格別制限されていない(期間の定めのある労働契約の場合は契約期間中は「やむを得ない事由」がない限り解約できない)点で労働契約に期間の定めがある場合とは異なり、期間の定めのない労働契約の終了事由ということができます。

[2]他方、定年制には年齢による差別という面がありますが、合理的な差別として憲法14条や27条1項には反しないものとされてきました(ただし、労働者が定年年齢に達しだからといって労働能力や適格性が衰えるとは限らないので、定年制の合理性は長期雇用システムと年功的処遇を前提としているので、長期雇用システムが解体され、年功的処遇が能力主義・成果主義と置き換えられた場合には不合理な差別とされる可能性がある)。

[3] 高年法8条は「定年は、60歳を下回ることができない」として、60歳未満の定年制を禁止しています。

昭和61(1986)年に高年法が制定されたときには60歳定年制が努力義務とされていましたが、平成6(1994)年の高年法改正により上記のように60歳未満の定年が禁止されました。

[4] 60歳を下回る定年年齢が定められている場合には高年法8条に違反することになります。この場合にはその定年の定めは無効になります。当該定年が無効になった場合には定年制が存在しない状態になるのか、60歳定年制が設けられた者とみなすのかについては争いがありますが、平成17年11月30日福岡高裁宮崎支部判決(牛根漁業協同組合事件)は58歳定年制について高年法8条に「抵触する限度」において私法上も無効とし、「少なくとも60歳までの雇用が保障されたといえる」と判示しました。

(2)65歳までの雇用の確保

(以下その2へ続く)

(民法協・兵庫県民主法律協会ニュース 2010・9・20)

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シルバー人材センター会員の『労災事故』

弁護士 増田正幸

1 事案の概要

(1)Aさんは平成12年8月からB社で工員として勤務していました。B社はコンテナ、パレット等の物流機器の製造を業とする株式会社で、従業員は33名でした。

(2)Aさんは、満60歳に達しか平成16年3月にB社を定年退職しましたが、退職後、シルバー人材センター(以下「シルバー]という)に登録して、シルバーを通じてB社で引き続き就労しました。ところが、平成17年5月の就業中にプレス機に左手を挟まれて左手の親指から中指の3指を切断する傷害を負いました。

(3)そこで、Aさんは労働基準監督署に労災申請をしましたが、労基署長はAさんが労災保険法上の「労働者」に該たらないとして、業務上災害であることを認めませんでした。Aさんは、労災保険審査官に対する審査請求、さらに労働保険審査会に再審査請求をしましたが、いずれも棄却され、神戸地方裁判所に労災補償の不支給処分の取消と支給決定を求めての行政訴訟を提起しました。

2 何か問題となったか

(1)Aさんは定年退職した後もB社から引き続いて就労をして欲しいと依頼されました。AさんはB社と再雇用契約を締結するということも可能でしたが、シルバーを介して、シルバーの会員としてB社で就労することにしました。B社に再雇用され年収が一定額を超えると老齢厚生年金の支給額が減額されるのに対して、シルバーを介して「配分金」を受け取る方法をとれば、年金支給額が減額されないと聞いたからです。

Aさんはシルバーに会員登録し、同時にB社からシルバーに求人しAさんを指名してもらうことにして、Aさんは再びB社で働き始めました。

(2)シルバーは、高年齢者雇用安定法に基づき高齢者に就業機会を確保提供する機関として兵庫県知事から指定された公益法人です。高齢者にふさわしい仕事を一般家庭・企業・公共団体等から請負又は委任により受注し、60歳以上の会員の能力、希望等に応じて仕事を提供していました。会員はシルバーが受注した仕事をシルバーからの再請負ないし再委任により発注者のもとで就業するという形式をとります。そして、シルバーが発注者から受領した請負ないし受託代金から所定の事務費を控除した残金を「配分金]として受領します。このようにシルバーの会員の就業は再請負ないし再委任にもとづくものとされていることから、会員は就業に際して労働基準法、労災補償保険法、雇用保険法などが適用されない(「労働者」ではない)こととされています。

図1雇用関係

(3)ところが、前記のとおり、本件ではB社はAさんに対して定年退戦前と全く同じ仕事を同じようにして欲しい(実質的には再雇用のつもりでした)ということであり、AさんもB社で従前どおり働くつもりでした。実際にも(報酬額と支払者がB社から、シルバーに代わった以外は)定年退職の前後で労働の実態は全く代わりませんでした。

しかし、シルバーが介在したことによりAさんとB者との間には雇用契約はもとより何の契約関係もないことになったのです。

本件のAさんの負傷は、AさんがB社の従業員であれば間違いなく業務上災害として労災補償の対象となるものでした。ところが、シルバーを介していたために労災保険法の適用対象外とされてしまったのです。

そこで、裁判ではB社との間に雇用契約を締結していないAさんが労災保険法の「労働者」に該当するのか否かが争われました。

3 神戸地裁平成22年9月17日判決

(1)神戸地裁は、労災保険法上の労働者について、以下のような判断基準を示しました。

 [1] 労災保険法にいう労働者は、労基法に定める労働者と同義である。
 [2] 労働者であるか否かは「使用者の指揮監督の下に労務を提供し、使用者からその労務の対償としての報酬が支払われている者として、使用従属関係にあるといえるか」を基準として判断すべきである。
 [3] 労働者性の判断は、個々の具体的な事情にもとづき労務提供の実態について実質的に検討して行うべきであるから、
 ア 労務の提供が他人の指揮監督下において行われているかどうか
 イ 業務従事の指示等に封する諾否の自由の有無
 ウ 業務遂行上の指揮監督の有無、勤務場所及び勤務時間が指定され管理されているかどうか
 エ 労務提供につき代替性の有無
等の事情を総合的に考慮して判断されるべきものといえる。

(2)本判決は以下の事実を認定して、AさんがB社の指揮監督の下に労務を提供していたと認定しました。

[1] Aさんは定年退職の前後を通じて、加工依頼書に指示された部品の加工作業を行い、納期に間に合わせるために残業や休日出勤を行い、業務遂行について指揮命令を受け、指示された業務を行っていたものといえ、Aさんにはこれらの業務につき諾否の自由はなかった。

[2] 定年退職の前後を通じて、就労場所も同じであったし、就業時間も変わりなく、B社従業員と同じくタイムカードに打刻し、残業や休日出勤はB社の許可を受けて行っていたことなど、B社の管理を受けていた。

[3] B社の組織に組み込まれてB社の加工部門の従業員と一体として仕事を分担して業務遂行を行っていた。

[4] 定年退職後も定年前と回様の業務を行うことを期待してセンターとの間で契約を締結したのであり、Aさん以外の者を就労させることは当初から予定されておらず、Aさんの業務に代替性はなかった。

(3)報酬の労働対慣性についてはつぎのように述べています。

B社の指揮命令の下に業務指示を受けて労務を提供し、その就労に対して、就労時間に応じて支払われた配分合は、実質上はAさんが一定時間労務を提供したことに対する対価たる賃金として支払われたものと認められる。

(4)なお、本件ではAさんはB社と再雇用契約を締結することもできたのに、あえてシルバーの会員として就労する途を選んでいます。被告はその点を問題にしてAさんやB社の認識を前提とすれば指揮監督下の労務提供ではないし、報酬の労務対慣性もないと主張しました。その点について、本判決は次のように述べました。

[1] Aさんが年金支給額の減額を避けるために、センターを介してB社で就労したことはセンターの利用方法として不適切である。

[2] しかし、労災補償制度は労働者が労務に従事したことによって損害を被った場合に過失責任主義のもとではその救済に欠けることになるから、これを救済するた.めに被災労働者の過失の有無を問わずに補償を与えようとする制度であり、労災保険制度は労災補償制度の実効性が使用者の支払能力によって左右されることを防止するために保険給付を行おうとする制度である。

[3] したがって、当該被災者において不適切な側面があるとしても、それが労働者の安全及び衛生の確保等を図るという労災保除法の趣旨、目的に照らして著しく不当である等特段の事情が認められない限り、労災保隆浩の適用を前提として労災補償を認めることが相当である。

4 本判決の評価

(1)労災保険法にいう労働者は、労基法に定める労働者と同義であることは、通説も認めています。労基浩上の労働者については、労働大臣の私的諮問機関である労働基律法研究会の昭和60年12月19日付け報告(「労働基準法の『労働者』の判断基準について」)が詳細な基準を明らかにし、多数の判例もこの基準にしたがって労基法上の労働者性の判断をしており、本判決もこれまでの多数判例の判断に沿うものです。

(2)そもそもシルバー人材センターの会員の就業は「臨時的かつ短期的なもの又はその他の軽易な業務」に限定されており、本件のように長時間、長期間でブレーキプレス機や切断機を用いる危険作業に従事することは予定されていませんでした(それゆえ、労災補償の対象からはずされていても支障がないのです)。その意味で本件はシルバー人材事業のあり方が問われた事案ということができます(担当弁護士は小沢秀造・増田正幸でした)。

(民法協・兵庫県民主法律協会ニュース 2010・10・20)

◆バックナンバー

高年齢者の雇用について その1  弁護士 増田正幸

高年齢者の雇用について その2  弁護士 増田正幸

高年齢者の雇用について その3  弁護士 増田正幸

シルバー人材センター会員の『労災事故』  弁護士 増田正幸

◆バックナンバー2010年8月更新分

抜け穴だらけの派遣法改正(案)  弁護士 瀬川嘉章
久々の労働委員会  弁護士 増田正幸

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